2023年8月10日3 分
Ito Farm, Hanamusubi Petillant 2022.
私は物持ちがかなり良い方だ。
特に、家具や家電を壊れてもいないのに買い替えることには、かなり抵抗がある。
日本に戻ってきてから10年が過ぎたが、今ある家具や家電のほとんどが、一度も買い替えられることなく(壊れた洗濯機を除く)、元気に役割を果たしている。
趣味のギター関連機材に至っては、20年以上使い続けているものも数多くある。
大豪邸に住んでいるわけでも、倉庫があるわけでも無いので、何か大きな物を買う時は、以前にあったものを捨てねばならない。
もちろん、過去には捨てたこともあるのだが、その捨てられたものがどこへ行ってどのように処理されるのか、と考えると、どうにも自分の行いが正しいと思えなくなってしまうのだ。
現代風に良く言えばSDGs、昔風に悪く言えば貧乏くさい考え方だが、私は「捨てない」方が心地良い。
同じ目線で、ワインのことを見るのもまた面白かったりする。
生き物である葡萄樹には、もちろん人生のサイクルというものがあり、人間と同じように活動力が最大限まで高まった後は、基本的には衰えていく。
そしてこの衰えは、ワインビジネス的には問題視されることが往々にしてある。
病害虫にやられたりして、手の施しようがない状況も確かにあるが、葡萄樹が植え替えられる理由のTop2は、収量(とそれに関連した収益性)と人気(売りやすさ)だ。
つまり、ほとんどの場合は人間側の勝手な都合によって植え替え(買い替え)られている。
ややこしいことに、SDGsには「ビジネスのサスティナビリティ」も含まれているため、この観点に立ってみれば、「植え替えは必要な手段」という主張は堂々とまかり通る。
まぁ確かに、頑なに葡萄樹を守った結果、ビジネスが破綻して、家族も従業員も養えなくなるのはどうかと思うので、完全に否定するわけにもいかない。
しかし、「守っている人たち」に対する好感を、私が隠しきれないのもまた事実だ。
今回Wine Memoでご紹介する愛知県岡崎市にある伊藤農園は、もともとあった農園を借り受けることから始まった。
段階的に農薬使用量を落としつつ、2019年ヴィンテージからは委託醸造でワインを造り始めた。
新たに発足したワイナリー(伊藤農園のケースは、正確にはワインレーベル)が、造りたいワインのために葡萄を植え替えるのは良くあることだが、伊藤農園のワインには、どうやら「昔からそこに植えられていた」葡萄がかなり使われているようだ。
今回テイスティングしたHanamusubi Petillant 2022の葡萄品種は、巨峰、ジャスミン、シナノスマイル、ゴルビー、サニードルチェ、シャルドネ、ヤマブドウ。
いくつか、ワイン醸造用としては滅多に名前を聞かない品種が入っている。
葡萄をごちゃ混ぜにしたワインならではの「ソワフ感」と、微発泡ワイン特有の絶妙に爽快な喉越しが最高だが、シャルドネ(比率は不明)が入っていることによって、味わいの輪郭もぼやけていない。
目の間にある葡萄を大切にし、たとえその葡萄が「グランヴァン」にはならないと分かっていても、引き抜かずにケアし続ける。
普段の私は、シャルドネだ、ピノ・ノワールだ、カベルネだ、リースリングだと騒いでいるが、こういうワインに出会うたびに、猛省したい気持ちになる。
そのワインが「誰かの美味しい」になれるのであれば、品種がどうなど言うのは、些末な問題なのかも知れない。