2023年11月28日7 分
収穫の終わったブドウ畑は静まり返っている。
あの収穫前の熱気や、興奮が渦巻いていた空気感は一切なく、紅葉したブドウ達が何事もなかったかの様に、ただ風に揺られ佇み、落葉が地面を覆っている。
収穫を終えた数日後、久し振りに畑を訪れて後片付けをし、それから暫く畑には行かなかった。
昨年もそうであったが、なぜか少し距離を取りたくなってしまう。
しかし、2024年シーズンは既に始まっている。
葉の紅葉や落葉の状態、枝の登熟具合を確認しながら、今シーズンの栽培を振り返り、来年へ向けて見直しを考えていかなければならない。
周りの山々草木が美しく色鮮やかに紅葉している。ブドウ畑も同様に葉の色が変わり、黄色や赤など一面を彩っている。
「紅葉」とは、気温の低下に伴って光合成効率の下がった葉の、葉内クロロフィル分解による老化反応であり、且つ落葉および再利用物質の回収準備でもある。
分解されたクロロフィル(葉緑体の緑色色素)は成長のために冬芽や根などの器官に運ばれ、翌年の資源として貯蔵される。
紅葉の赤色はアントシアニン色素、黄色はカロテノイド色素であり、紫外線吸収作用のあるアントシアニンで紫外線から細胞を守っているようである。
私達が美しいと眺めている間に、植物達は着々と冬支度を進めている。
落葉期の葉の落葉具合で、ブドウ樹の樹勢を診断する事ができる。
① 葉の紅葉の仕方
② 新梢の登熟程度
③ 新梢の長さと揃い
一般に落葉期は品種によって始まる時期が異なり、早生品種は早く、晩生品種は遅く訪れる。早生品種は9月下旬から10月上旬、葉の緑色が次第に退化し始め、それぞれ品種特有の紅葉が始まると言われている。
葉内の窒素、リン、カリなどは新梢内に回収され、葉中含量は急激に低下し、糖の含量は増加する。カリやホウ素の欠乏症、さび病、褐斑病などが発生した園では9月中〜下旬の早期落葉がみられる。
秋伸びで徒長している園は10月に入っても紅葉せず、葉で合成された炭水化物が新梢の伸長に利用されるので葉はいつまでも青く、降霜によって枯死する。このような樹は葉中成分の回収は行われず、樹帯内の炭水化物の蓄積は少ない。
徒長して木質化の進んだ新梢は凍結により枯死することは少ないが、新梢の伸長と木質化に多量の炭水化物がセルロースやリグニンの合成に消費されたので、新梢内や樹体内の澱粉含量が低下し、凍結害に対する抵抗力が著しく弱められる。
新梢の長さが150cm〜200cmで揃いが良く、総伸長量の3/4〜4/5ほど木質化したもので、欠乏症や病害虫防除が充分に行われていると紅葉も落葉も正常で、晩秋には葉中成分の回収も行われて養分の含有量は高くなる。
今シーズンは、「ベト病」および「さび病」、そしてコガネムシ(マメコガネ)の食害によって多くのブドウ葉に被害が出てしまった。光合成という非常に大事な仕事をする葉をしっかり守ることは栽培の基本であるが、収穫するブドウの品質や、冬を越す為の養分確保の面から見ても、今シーズンは反省の残る結果となってしまった。
どうにか押さえ込む事ができたので、現在の紅葉や落葉の様子を見る限り、最低限の状態は保たれたように感じる。しかし、来シーズンは彼らを徹底的に守っていきたい。
登熟とは、一般的には子実などに炭水化物、脂質、タンパク質などが貯蔵される事をさすが、ブドウでは、結果母枝の基部の方から炭水化物を中心とする養分が詰まり、充実した枝になる事をさし、樹体内に蓄積された炭水化物が、耐寒性を高める上で大きな役割を果たしているのは周知の事実である。
澱粉および糖として貯蔵された炭水化物は、開花直前の養分転換期までは新梢や花穂の発育に消費され、開花後に新しい葉で合成された炭水化物は新梢伸長や果実生産と同時に樹体への蓄積が再び始まり、枝や根に澱粉として蓄積される。
8月頃、枝の炭水化物含量が14%程度になると、結果枝の褐変(登熟)が始まり、枝は硬くなり、緑色から褐色へと変化していく。炭水化物含量の多いもの程それが早く始まり、その割合も高くなる。
結果枝の褐変が終了し、最低気温が15度以下となり葉の変色が始まると、枝の澱粉は徐々に糖に変化し耐寒性を増加させる。
ブドウの耐寒力は、10月に葉が変色する頃から次第に高まり、11月頃にはマイナス10度にも耐える事ができ、1月から2月が最大でマイナス20度に耐えうる耐寒力を保有している。
ちなみに、養分が不足している枝は先まで登熟が進まず、その部分は枯死してしまう。これはブドウ特有の現象で、枝が限りなく伸びる事を阻止する為だと言われる。
ブドウは日本全国で栽培されており、適応力の強い果樹と言える。これは、耐寒力の強い事がその要因の一つである。
晩秋から初冬にかけて気温が15度以下になると、ブドウの耐寒性は徐々に高まっていき、さらに気温が0度以下になると耐寒力は加速的に増加する。
さらに低温が続く事で枝梢中の澱粉が糖へ転換し糖含量が著しく高められ、枝や芽の細胞内で顆粒状の不溶物として存在していた澱粉が、水に可溶性の糖に変わる事により細胞液の濃度が高まり、低温になっても凍りにくくなる。このような、植物が寒さを感じて一時的に糖の濃度を高める事は、ブドウに限らず多くの木本性植物で認められる現象で、ハードニング(耐寒性増強)と呼ばれている。
秋に生葉で生産される特殊なホルモン物質が、熟枝と芽に送られて「休眠」を引き起こしているようだが、圃場のブドウ達も着々と休眠の準備を進めているようである。
昨年に初収穫を迎えたブドウで造った自身初のワインが、いよいよ今月に発売となった。
白ワイン1種類。
醸造は委託で、長野県東御市の「Les Vins Vivants」の荻野夫婦へお願いし、極力の人為的介入および物質添加を避けた自然な造りになっている。
愛情込めて大切に育てたブドウで出来た、飲み口の優しいワイン。
☆ご興味ある方は是非手に取って飲んで頂けたら嬉しいです。
長野市浅川葡萄農園 白ワイン
\4000(税込)内容量750ml アルコール10.5%
(購入受付:LINE よりメッセージをお願い致します)
生産本数が少ない為、なくなり次第終了とさせて頂きます。
来秋を目標に醸造所の開業準備を行っている。
場所は畑のすぐそば、築200年の土蔵を改装して2階建ての小さな醸造所を構える計画である。
3階建て構造(半地下/1階/2階)の2階部分をなくして中2階とし、1階を醸造室、地下を熟成室とし、高低差を利用した液体の移動(グラヴィティ)を行い、ポンプは使用しない。
最低限の醸造機器を使用し、古典的なワイン造りを目指す。
☆醸造所開業へ向けてクラウドファンディングを行っています。
応援して頂ける方は、是非ご連絡をお待ちしています!
(受付:LINE よりメッセージをお願い致します。詳細をお送り致します。上記QRコード「長野市浅川葡萄農園」)
今年も残り僅か。
来シーズンは既に始まっている。
今出来ることをしっかりと行い、今年を見直し、来年の対策を考え、良いブドウを収穫できるようひたむきに行動するだけである。
初めてワインの販売する中で改めて感じる事は、ワインの原料は「ブドウ」であるということと、原料以上のワインは決して生まれないという事である。
畑での作業が全て。それを強く自覚しなければならない。
<筆者プロフィール>
ソン ユガン / Yookwang Song
Farmer
1980年宮城県仙台市生まれ。
実家が飲食店を経営していたこともあり幼少時よりホールサービスを開始。
2004年勤務先レストランにてワインに目覚めソムリエ資格取得後、2009年よりイタリアワイン産地を3ヶ月間巡ったのち渡豪、南オーストラリア「Smallfry Wines(Barossa Valley)」にて約1年間ブドウ栽培とワイン醸造を学ぶ。
また、ワイン産地を旅しながら3つのレストランにてソムリエとして勤務。
さらにニュージーランドのワイン産地を3ヶ月間巡り、2012年帰国。星付きレストランを含む、都内5つのレストランにてソムリエ、ヘッドソムリエとして勤務。
2018年10月家族で長野へ移住。ワイン用ブドウを軸に有機野菜の栽培をしながら、より自然でサスティナブルなライフスタイルを探求している。
2021年ブドウ初収穫/ワイン醸造開始。
現在も定期的に都内にてワインイベントやセミナーなどを開催。
日本 ソムリエ協会認定 シニアソムリエ
英国 WSET認定 ADVANCED CERTIFICATE
豪国 A+AUSTRALIAN WINE 認定 TRADE SPECIALIST