2022年12月3日4 分

蒸し野菜をさらに美味しく!?

野菜の一番好きな食べ方は?と問われると、迷うことなく「蒸し」と答える。

水分を含んで柔らかくなったテクスチャー、存分に引き出される甘味、皮のマイルドな苦味が、シームレスに繋がる。

野菜の「質」が味わいに大きく影響する料理でもあるため、さらなる美味しさを求めるとコストが意外と高くなってしまうのは難点だが、体に良いのはもちろんのこと、塩やソースで味付けを自由に変えることも可能なので、様々な楽しみ方ができる。

さて、このような料理は、ワインペアリングの基礎技術を習得する上でも最高の教材となる。

まずは、NG例から考えていこう。

多くの蒸し野菜にとってNG対象となりやすいのは、渋味の強い赤ワインだ。

タンニンとたんぱく質の互いに結びつこうとする性質、がNGの理由となる。

つまり、料理にたんぱく質がほとんど含まれていない場合、ワインのタンニンが行き場を失って暴走し、結果として苦味に近い味わいが生じてしまう、ということだ。

一方で、軽いタンニンの赤ワインなら問題とならないケースもあるが、ここにも理由がはっきりとある。一部の緑野菜や、根野菜の皮に主に含まれる少量の苦味は、タンニンと調和の関係となるため、(苦味と渋味のバランスが取れている限りは)タンニンが行き場を失わないのだ。なお、同様の現象が、一般的なオレンジワインでも確認できる。

とはいえ、総合的に考えれば、赤ワインは回避した方が無難と言える。

ここまでのポイントをまとめると、以下の通りとなる。

1. 渋味の強い赤はほぼ無条件でNG。

2. 渋味の弱い赤、もしくはオレンジワインなら、苦味のある野菜にはOK。

では、実際にどのようなワインがより良い相性を示すのかを考えていこう。

ロゼやシャンパーニュといった、汎用性が極めて高いタイプのワインは問題なく上手くいくので今回は除外して、白ワインに焦点を当てていく。

まず、果実味とミネラルという二つの項目に関して考えていくと道筋が見えやすくなる。

果実味は、タイプで分けると理解がしやすい。柑橘系の果実味は野菜の味わいと相性が良いので候補としてはトップクラスに挙がる一方で、トロピカル風味が強くなればなるほど、野菜との相性が微妙になってくる。つまり、基本的には冷涼産地の白ワインが向いていて、温暖エリアのワイン、もしくはゲヴュルツトラミネールやヴィオニエのような品種は「好き嫌いがかなり分かれる」結果となる。

ここはあまり難しく考えずに、「蒸し野菜にレモンかけると美味しい」くらいの塩梅で十分だ。

次はミネラル。科学的には不確かな要素だが、野菜とのペアリングではかなり重要度が高まる。結論だけを簡潔に述べると、「野菜に合わせるなら、ミネラル感は強い方が断然良い」となる。ここも、なるべくシンプルに考えるのが得策で、(例外はかなり多いが)灌漑への依存度が低いオールドワールドを中心に探すと良い。

ここまでのポイントを再びまとめると、以下の通りとなる。

1. 柑橘系果実味の冷涼産地ワインが無難。

2. ミネラルが強く出るワインだとさらに良い。

近年は温暖化で例外も増えているので要注意だが、シャブリ、サンセール、リースリング(ドイツ、オーストリア、アルザス)、ピノ・ブラン(ドイツ、アルザス、北イタリア)、グリューナー=ヴェルトリーナー、ジルヴァーナー、アルバリーニョ、ヴィーニョ・ヴェルデ、ソアーヴェ、ガヴィ、アルネイスなどは比較的入手しやすく、蒸し野菜にも非常に合わせやすいワインと言える。

ここまでの範囲がしっかりと守られていれば、基本的に「失敗」は無いが、更なる「高み」を目指すにはもう一段階精度を上げたいところ。

そこで鍵となるのが、テクスチャーと酸だ。

蒸し野菜は、その柔らかいテクスチャーが最大の特徴となる。食材次第では「ねっとり」した食感ともなるだろう。このテクスチャーと合わせるためには、ある程度の新樽と、マロラクティック発酵が重要となってくる。共にワインのテクスチャーをソフトにする手法だ。さらに、新樽に至っては、蒸し野菜の定番ソースである「ごまだれ」とも風味の相性が抜群。ねっとり系蒸し野菜をゴマだれで食べるなら、ど真ん中のチョイスとなる。ポイントは、食材のテクスチャーがねっとりすればするほど、新樽比率を上げることにある。

ワインの酸は、蒸し野菜のソースや塩によって、柔軟に使い分けたいところ。塩、味噌は強い塩分を足し、ポン酢などは強い酸を足す。どちらの場合でも、ワインの酸も強くする必要がある。また、この法則は逆方向からも応用可能で、選んだワインの酸が強すぎると感じた場合、最後の微調整として塩、味噌、ポン酢を用いれば良い。

このように、シンプルだが実に奥深い蒸し野菜とワインのペアリング。

ぜひ皆様にも、ペアリング理論の実践編としてチャレンジしていただきたい。