2023年1月4日4 分
我々が日常的に食す料理、食材の中には、真面目にペアリングを考えようとすると、かなりの難敵となるものがある。
例えば、ラーメン、うどん、蕎麦といった「汁+麺」にカテゴライズされる料理は強敵揃いだし、納豆のような特殊な発酵食、梅干しのような五味が極端に偏っているものも難しい。
ただし、ここでいう「難しい」というのは、不可能と同義ではなく、実際には攻略可能なのだが、その攻略法そのものが特殊かつ、一般受けしづらいもの(梅干しと貴腐ワインなど)になりがちだ。
さて、今回挑むカジュアルフードはタコライス。
沖縄県の料理であることは良く知られているが、その実態は一般的な日本料理からは程遠く、カレーライスやハンバーグと同様の「日本風洋食」と考えて差し支えない。
(そもそも、その起源は沖米国海兵隊の間で人気だったタコスを白飯に乗せた、安価でヴォリューム感のある料理として生まれたものだ。)
基本となるレシピは、白飯、レタス、トマト、チーズに牛挽肉をスパイシーに仕立てたタコミート、もしくはトマトベースの辛いサルサソースとなる。
ペアリングのロジックにこれらの要素を当てはめていくと、以下のように整理できる。
1. 白飯は「あらゆる粉物」と同様に、基本的には無視する。
2. レタスは風味、トマトは酸味、チーズは塩味として捉える。
3. タコミート、サルサソース共に、辛味として捉えるが、タコミートの場合は牛肉であることを意識する。
4. 野菜と肉が同じ料理内に混在している場合は、基本的には肉を優先する。
タコライスとのペアリングを難解にしている最大の要因は、4番目の法則。
そう、この料理に含まれるレタスが生野菜であるため、4の注意事項として存在する「ただし、生野菜(特に葉野菜と根菜)が多く含まれる場合は、その限りとならない。」が適用されてしまうのだ。
(トマトがフルーツか野菜かという議論は横に置いておくが、ペアリングにおいては4の法則を妨げる存在にはならない。)
仮にレタスをサッと茹でたとしたら、タコミート(牛+辛味)orサルサ(辛味)、チーズ(塩味)、トマト(酸味)にだけ集中すれば良いため、それらの要素に対応できる「ワインの酸味」を中核に組み上げれば、ひどい失敗例は生じにくいし、合わせられるワインのヴァリエーションもかなり広くなる。
しかし、生のレタスはかなりの存在感があるため、無視することが不可能となる。
では、いよいよ攻略していこう。
まずは、生レタスに対する正攻法である、リースリング、グリューナー=ヴェトリーナー、ソーヴィニヨン・ブラン、ジルヴァーナー、セミヨンあたりを中心に考えてみよう。
余計なトロピカル風味が生じない冷涼産地であれば、これらの全てが生レタスに対して問題なく対応できるだろう。
辛口の場合は、さっぱりとさせる方向性に、軽い甘口を用いた場合は、辛味との中和によって、より厚みのあるペアリングとなる。
特に、サルサソースを用いるレシピの場合は、この対処法で十分だ。
しかし、タコミートの場合は話が違ってくる。
牛肉という重要な要素を、それらのワインではキャッチしきれないため、赤ワインの線から探っていくことになるのだ。
まず、辛味と塩味が強めに入っている料理であるため、高アルコール(辛味と塩味をブースト)も高タンニン(塩味をブースト)もNG例となる。
そして、高い酸は当然として、生レタスとの風味的類似性も欠かせない。
安直に、「青い風味=ハーブ=ピラジン」と考えて、メルローなどの品種を考えるのも、完全に不正解ではない(高タンニン、高アルコールという問題も生じやすい)が、実際にやってみると、レタスとは少し距離が遠いと感じるだろう。
ここは、似て非なる方向性の、全房発酵というチョイスが相応しい。
さらに、タコミートのスパイス感とも同調させるのであれば、そういう風味を本来もっている品種がより良い選択となる。
つまり、シラー、グルナッシュ、カリニャンといった、いわゆる地中海系黒葡萄の出番だ。
単純な全房発酵だと、ワインが重くなる可能性も残るため、カーボニック・マセレーション(実質的な全房発酵でもある)の助けも借りると、ペアリングの完成度はさらに高まるだろう。いうまでもないが、新樽の味は不必要となるため、高級ワインは避けるべき。
幸いなことに、フランス・ラングドックを中心として、このタイプの赤ワインは世界各地にかなりある。
随分と答えに行き着くまで遠回りをすることになったが、カジュアルな料理に潜む難敵を攻略していくのは、なかなか楽しいものだ。
皆様も是非機会があれば、タコミートのタコライスと、一般的なメルロー、そして地中海系黒葡萄品種のカーボニック・マセラシオン系ワインを、合わせ比べてみていただきたい。料理も簡単で、比較的安価なワインで試せる高難度ペアリングであるため、いかにペアリング理論が繊細なものであるかを体験する意味でも、もってこいの題材となるだろう。