3月6日8 分

SommeTimes’ Académie <57>(フランス・ボルドー地方:Pomerol)

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回もボルドー地方について学んでいきます。

 

ボルドー地方に関する基礎的な情報は、無料のものが十分に存在していますので、本シリーズでは基本的に割愛しますが、その代わりにより深いところを探っていきます。

 

ボルドー地方シリーズ第八回は、「ボルドー右岸:Pomerol地区」と致します。

 

 

Pomerol

St-Émilionと並び、ボルドー右岸を代表するアペラシオンがPomerolです。総面積は約800haとボルドー主要アペラシオンの中では群を抜いて狭く、St-Émilionの約1/7程度しかありません。

 

全植樹面積の約80%をメルローが占め、その他は主にカベルネ・フランとなっています。ブレンドにおいてもメルロー比率が90~100%になることも珍しくないため、St-Émilion以上にメルローの産地となりますが、エリアとシャトーのスタイルによってはカベルネ・フランの比率が少し増えることもあります。

 

基本的には海洋性気候(海の影響によって、より安定した気候)ですが、Pomerolは海からの距離が遠く、付近に大きな河川も無いため、大陸性気候(昼夜の寒暖差が大きくなり、春の降雨量も多くなる)の影響も強く受けています。

 

土壌に関しては、基本的に北部と東部は粘土質が優勢、南部と西部は砂利質が優勢となりますが、実際にはかなりのモザイク状態となっています。

 

少々強引に一般化すれば、北部と東部は重心が低くよりパワフルな味わいに、南部と西部は重心がより高く軽快な味わいになると言えなくも無いですが、各シャトーにおけるワインメイキング等の影響も大きいため、あくまでも一般論として捉えておくべきでしょう。

 

メルローと粘土質土壌のイメージから、パワフルなワインと誤解されることも多いPomerolですが、その本質「パワーとエレガンスが共存した優美極まりない味わい」にこそあります。大陸性気候の影響による昼夜の寒暖差によって、充実した酸を保ちつつ、早熟型のメルローをゆっくりと成熟させることができる点は、その酒質に大きく関わっていると言えるでしょう。

 

また、春の開花期に雨が重なるとメルローが生育不順に陥りやすいこと、他の銘醸エリアとは違ってメルロー比率が極めて高いこと、葡萄畑が小さいこと、等の要因が合わさり、Pomerolはヴィンテージによる品質格差が比較的大きいことでも知られています。

 

Pomerolに公式格付けはありませんが、ムエックス社が所有するPétrusを筆頭とした強力なブランディング、LafleurLe Pinなどの極小規模シャトーへの需要の集中等の理由で、一部の銘柄はメドック地区公式格付けシャトー群や、St-Émilionのトップ・シャトー群を遥かに凌駕する超高価格で取引されています。

 

 

SommeTimes的「新格付け」

SommeTimesによる「新格付け」では、Pomerolにあるシャトーの中から厳選して、ボルドー左岸と同じ方式で格付けしていきます。

 

SommeTimesが第五級相当と判断したシャトーと、ほぼ同等と考えられる実力を有する格付け外シャトーが多数存在していることも鑑みて、少々厳しくはありますが、第五級相当はそもそも格付けには相応しくない、と判断いたします。

 

また、今回も準第一級相当と第二級を明確に分けてリストアップすることと致します。

 

 

第一級相当

Ch. Pétrus 

Ch. Lafleur

 

解説:

Pétrusは、その存在そのものと、極まった品質でPomerolの象徴たるに相応しいシャトーです。元々歴史的にも十分に高い名声を誇っていたシャトーですが、現在の地位は1945年以降に故ジャン=ピエール・ムエックスが専売権を取得したことによって築かれました。オリジナルの葡萄畑は1961年に2つに分かれましたが、1964年にムエックス社がその片方を買収し、1969年には隣接するGazinから買い取った領地をPétrusへと併合したことによって、現在の11.4haという葡萄畑になりました。

 

オリジナルの区画(約7ha)は、鉄分を豊富に含む青色粘土質土壌(*)のエリアにあります。このエリアにはPomerolを代表するクラスの名シャトーが名を連ねていることもあり、高品質と結び付けられることも多いです。

 

(*)このエリアで見られるモラッスMolasseと呼ばれるこの青色粘土土壌と、鉄分を多く含む砂岩土壌(クラス・ド・フェルClasse de Fer)の組み合わせは、一般的にブートニエールbouttonière、もしくはペトリュス・ブートニエールと呼ばれます。ブートニエールはPomerolの中でも僅か約20haしか存在していませんが、モラッス単体で見れば、ペトリュスの北西部エリアにも僅かながら広がっています。

 

Pétrusに関して注意しておきたい部分としては、その抜栓タイミングの難しさが挙げられるでしょう。固く閉じているタイミングが比較的多く、場合によっては事前抜栓やデキャンタージュ等も駆使しないと、その超高価格に見合った体験をすることは叶いません。個人的には、Pétrusでは「ハズレ」の経験の方が遥かに多い、とだけ書き記しておきます。また、投機の対象となる最たるワインでもあるため、頻繁な移動によるコンディション不良も頻繁に見受けられます。Pétrusを購入する際は、シャトー蔵出しの正規輸入品に限定しておく方が安全でしょう。

 

 

もう一つの第一級相当はLafleurです。Pétrusのすぐ近くにあるこの僅か4haのシャトーは、Pomerolの中でもずば抜けてカベルネ・フラン比率が高い(ヴィンテージによっては、メルローよりも高い)ことで知られ、その繊細かつ優美極まりない味わいは、至極の一言に尽きます。1984年以降、セカンド・ラベルとなるLes Pensées de Lafleurが全生産量の4割近くを占めるようになったため、ファースト・ラベルは非常に希少なワインとなっています。また、セカンド・ワインに多くを回すその極めて厳しいセレクションから、ファースト・ラベルの品質は、Pomerolトップ・シャトー群の中でも、頭一つ抜けた高い安定性を誇ります。個人的には、左岸も含めたあらゆるボルドーの中で、最上位の筆頭に位置しているシャトーでもあります。十分過ぎるほど高価なワインではありますが、その極まった品質と明白な個性、希少性も全て合わせて考えれば、同列の第一級相当シャトーの中でも、コストパフォーマンスに優れた部類に入ると考えても良いでしょう。

 

 

準第一級相当

Ch. La Conseillante

Ch. L’Eglise Clinet

Vieux Château Certan

 

解説:

Pomerolには3つの準第一級相当シャトーが存在しています。どのシャトーも例外なく、Pomerolにおいて最も名高いシャトーとして知られてきた豊かな歴史を誇りますが、設備投資等も含め、品質の維持向上には余念がありません。価格的には左岸の第二級クラスとほぼ同じとなるため、相対的に見ればコストパフォーマンスが高いとも言えます。

 

La ConseillanteはPomerolの南東端に位置する約12haのシャトーです。Pomerolの中でも最も繊細でエレガントとされるその酒質は、むしろ(ほぼ)隣接するSt-Émilion側のCheval-Blancと関連付けた方が分かりやすいかも知れません。特に近年の品質向上と安定性は素晴らしく、準第一級相当とするに相応しい領域に到達しています。

 

L’Eglise Clinetはアペラシオン中央部に位置する約15haのシャトーです。その酒質はまさにPomerolの王道となり、ふくよかで腰の据わった果実味が特徴となります。また、平均樹齢が非常に高い(40年越え)ことから、充実したミネラル感と奥深い味わいも大変魅力的です。

 

Vieux Château Certanは、1924年以降、ティエンポン家によって所有されています。約14haの葡萄畑のうち60%がメルローであり、カベルネ・フラン(30%)とカベルネ・ソーヴィニヨン(10%)がブレンドされることによって、極めて高い複雑性、頑強なストラクチャー、奥深い味わいとなります。

 

 

第二級相当

Ch. L'Évangile

Ch. La Fleur-Pétrus

Ch. Trotanoy

Ch. Le Pin

Ch. La Violette

 

解説:

第二級相当には、5シャトーがランクイン。南東部に位置するL'Évangileは優美なワインに、Pétrusに隣接する東部のLa Fleur-Pétrusはややパワフルなワインに、中央部に位置するTrotanoyLe PinLa Violetteはバランス型のしなやかなワインとなる傾向にあります。

 

TrotanoyLa Fleur-Pétrusは共に歴史あるシャトーで、現在はムエックス社が所有しています。L'Évangileもまた18世紀半ばから存在する古いシャトーですが、現在はLafite-Rothschildを有すDomaines Barons de Rothschild社によって所有されています。

 

Le Pin2.7ha)とLa Violette(1.8ha)は、共に極小規模のシャトーとなり、特にLe Pinは一世を風靡したPomerolの「ガレージワイン」代表格として、非常に良く知れています。ただし、その葡萄畑の小ささ故か、やや不安定になる傾向もあり、Le Pinに関してはそのPétrusに迫るほどの流通価格を鑑みるなら、過大評価されていると考えて差し支えないでしょう。

 

 

 

第三級相当

Ch. Latour à Pomerol

Ch. Séraphine

Ch. Certan de May

Ch. Clinet

Ch. Feytit Clinet

Ch. Clos l'Église

Ch. Gazin

Ch. Lafleur-Gazin

Ch. Hosanna

Ch. le Gay

Clos du Clocher

Enclos Tourmaline

Ch. Nenin

 

解説:

第二級、第三級に相当するシャトーが合計17もあるという事実が、狭いPomerolにどれだけ素晴らしいテロワールが詰まっているかを証明しています。

 

第三級相当シャトーのほとんどはアペラシオン中央部から東部に位置しており、全体的にメルロー比率が高く、Pomerolのより典型的な、ややパラフル型の性質を示します。

 

例外と言えるのはNenin。西部と東部(Hosannaに隣接)を合わせて25haという広さはPomerol最大級で、狭範囲のテロワール表現が主体となるPomerolにあって、左岸を思わせるフィロソフィーによって造られるワインとなります。実際に、シャトーを所有するのは左岸のLeoville-Las Casesを有するデュロン家です。

 

 

第四級相当

Ch. La Fleur-de-Gay

Ch. Beauregard

Ch. Bon-Pasteur

Ch. La Croix St. Georges

 

解説:

La Fleur-de-Gay は北東端に、BeauregardLa Croix St. Georgesは南端に、Bon-Pasteurは東端に位置することから、Pomerolにおけるこのクラスのシャトーが、どのような立地にあるかは明白です。

 

どのワインも高品質なワインではありますが、やや極端な個性となり、バランスとフィネスに欠けます。