1月24日5 分

SommeTimes’ Académie <55>(フランス・ボルドー地方:Saint-Émilion)

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回もボルドー地方について学んでいきます。

 

ボルドー地方に関する基礎的な情報は、無料のものが十分に存在していますので、本シリーズでは基本的に割愛しますが、その代わりにより深いところを探っていきます。

 

ボルドー地方シリーズ第八回は、「ボルドー右岸:Saint-Émilion地区」と致します。

 

 

Saint-Émilion

ボルドー右岸を代表するアペラシオンの一つがSaint-Émilionです。総面積は約5,400haと広く、全体的な品質は高いですが、玉石混交という側面もあります。

 

最も一般的なブレンド比率はメルローが60%程度、カベルネ・フランが30~40%程度、カベルネ・ソーヴィニヨンが0~10%程度となりますので、基本的にはメルローの産地と言えますが、一部のエリアでは、カベルネ・フランが最高品質の葡萄となります。

 

銘醸ゾーンは、主に4つの「丘」に分けることができます。なお、丘の名は通称であり、正式名称ではありません。

 

北西部「シュヴァル・ブランの丘」で、砂質土壌が主体となり、カベルネ・フランを得意とします。Cheval-BlancFigeacがこの丘を象徴するシャトーです。

 

中央部「オーゾンヌの丘」で、粘土質土壌が主体となり、メルローを得意とします。AusoneCanonがこの丘を象徴するシャトーです。

 

北西部と中央部の間「アンジェリュスの丘」で、粘土質、砂質、石灰質が混じり合った複雑な土壌となりますが、ややメルローが優勢なエリアです。Angélusがこの丘を象徴するシャトーです。

 

中央部の東側「パヴィの丘」で、粘土石灰質が主体となり、メルローを得意とします。Pavieがこの丘を象徴するシャトーです。

 

Saint-Émilion地区公式格付け

1955年に導入されたSaint-Émilion地区公式格付けは、1969年、1986年、1996年、2006年、2012年、2022年と6度に渡って見直されてきましたが、2006年以降はトラブル続きです。

 

2006年の改訂時には、降格した4シャトーが異議を申し立て、法廷での闘争に発展しました。

 

2012年の改訂時には、長年Saint-Émilionの頂点として不動の地位にあったAusoneCheval-Blancが属するPremier Grand Cru Classé “A”に、PavieAngélusが仲間入りしたことが、大きな議論を巻き起こしました。

 

さらに2022年の改訂時には、AusoneCheval-BlancAngélus “A”3シャトーと、“B”のLa Gaffelièreが格付けから撤退。近年の劇的な品質向上と歴史的名声を鑑みれば、Figeac の“A”昇格自体は不思議なことではありませんが、混迷を極めてきたSaint-Émilion地区公式格付けが遂に、ほぼ意味消失したと言えるでしょう。

 

 

SommeTimes的「新格付け」

SommeTimesによる「新格付け」では、Saint-Émilionの公式格付けシャトー(Premier Grand Cru Classé 及びGrand Cru Classé)と、一部の格付け外シャトーを、ボルドー左岸と同じ方式で格付けしていきます。

 

SommeTimesが第五級相当と判断したシャトーと、ほぼ同等と考えられる実力を有する格付け外シャトーが多数存在していることも鑑みて、少々厳しくはありますが、第五級相当はそもそも格付けには相応しくない、と判断いたします。

 

また、今回も準第一級相当と第二級を明確に分けてリストアップすることと致します。

 

 

第一級相当

Ch. Ausone(格付け外選出)

Ch. Cheval-Blanc(格付け外選出)

 

解説:

共に最新格付けからは撤退しましたが、AusoneCheval-Blancが現在もなお、Saint-Émilionの象徴かつ頂点であることには変わりありません。

 

Ausoneは粘土質土壌、Cheval-Blanc鉄分に富む砂利質土壌となり、Ausoneはメルロー、Cheval-Blancはカベルネ・フランがその真髄に至ります。

 

興味深いことに、両シャトー共に、ブレンド比率は2品種がほぼ同じとなることが多く、純粋なテロワールの差が、その酒質に反映されていると考えて良いでしょう。

 

 

 

準第一級相当

Ch. Figeac

Ch. Pavie

Ch. Canon

Ch. Angélus(格付け外選出)

 

解説:

Figeacはかねてからその高いポテンシャルが認められてきましたが、近年の劇的な品質改革によって、最新格付けでは念願の Premier Grand Cru Classé “A”昇格を果たしました。葡萄畑はCheval-Blancに隣接しており、実際に現Cheval-Blancの一部は、かつてFigeacの領地でした。Cheval-Blancと同様の鉄分に富む砂利質土壌から、アロマティックでエレガントなワインが生まれます。

 

Pavieが位置するエリアは、歴史的に「パヴィの丘」として知られてきた銘醸畑です。そのパワフルでモダンな味わいは、先進的なワインメイキングによる、表層的なものだと批判されがちですが、極めて日当たりに優れた「パヴィの丘」のテロワールによる影響も大いにあります。2012年の公式格付け改訂時に、“A”へと昇格しました。

 

CanonAusoneのすぐ近くに位置するシャトーで、最新の格付けではPremier Grand Cru Classé “B”に位置付けています。1996年からオーナーになったヴェルメテール家(シャネルのオーナー一族)による、辛抱強い品質改革が遂に実を結び、現在の実力はSaint-Émilionのトップクラスとなっています。次回の公式格付け改訂時には、“A”へと昇格する可能性も非常に高いと考えられます。「オーゾンヌの丘」らしく、メルローがその真価を最大限に発揮するテロワールとなります。

 

Angélusは、2012年の改訂時に“A”に昇格しましたが、最新格付けでは離脱しています。Cheval-BlancAusoneの丁度中間地点に位置し、丘の上部では粘土質土壌、下部では石灰土壌が主体となります。異なる性質の土壌から生まれる複雑で奥深い味わい、そして抜群の安定感がAngélusの真骨頂です。

 

 

第二級相当

Ch. Beauséjour

Ch. Beau Séjour-Becot

Ch. Bélair-Monange

Ch. Canon-la-Gaffelière

Ch. Larcis Ducasse

Ch. Troplong Mondot

Ch. Pavie-Macquin

Ch. La Gaffelière(格付け外選出)

 

解説:

第二級相当に8シャトーがランクインする、という事実そのものが、Premier Grand Cru Classé “B”の高い総合力を示しています。

 

どのシャトーも継続的な品質向上に余念がなく、特に2010年代半ば以降は、抜群の安定感を誇ります。

 

La Gaffelièreはかつて“B”でしたが、最新の格付けからは離脱しています。

 

 

 

第三級相当

Ch. Clos Fourtet

Ch. La Mondotte

Ch. Valandraud

Ch. Pavie-Decesse(Grand Cru Classéから選出)

Ch. Péby-Faugères(Grand Cru Classéから選出)

 

解説:

Premier Grand Cru Classé “B”に属する3シャトーはいずれも高品質ですが、第二級相当となるには、後一歩の安定性に欠けます。La MondotteValandraudは極小規模のシャトーであるため、難しいヴィンテージになると特に、不安定になる印象です。

 

Grand Cru Classéから選出の2シャトーは、文句なしに“B”の地位に相応しいシャトーとなります。現状の品質を維持することができれば、将来的に昇格する可能性も非常に高いと考えられます。

 

 

 

第四級相当

Ch. Trotte Vieilleを除き、全てGrand Cru Classéから選出

 

Ch. Trotte Vieille

Ch. Barde-Haut

Ch. Bellefont-Belcier

Ch. Bellevue

Ch. Berliquet

Ch. Cadet-Bon

Ch. Clos de Sarpe

Ch. Corbin

Ch. Fleur-Cardinale

Ch. Fonplégade

Ch. Fonroque

Ch. Franc-Mayne

Ch. Grand Corbin-Despagne

Ch. Grand Maybe

Ch. Jean Faure

Ch. Laroque

Ch. La Clotte

Ch. La Dominique

Ch. La Marzelle

Ch. La Tour Figeac

Ch. Monbousquet

Ch. Moulin du Cadet

Ch. Petit Faurie de Soutard

Ch. Quinault l’Enclos

Ch. Rochebelle

Ch. Sansonnet

Ch. Soutard

Ch. Villemaurine

Clos St. Martin

Clos de l’Oratoire

Couvent des Jacobins

 

解説:

唯一のPremier Grand Cru Classé “B”から選出となるTrotte Vieilleは、燻し銀な味わいが光る良シャトーですが、現代的なアップデートからは遅れています。

 

Grand Cru Classéからは、30シャトーがこのクラスにランクイン。全体的に品質が高く、第三級相当に限りなく近いシャトーも複数含まれています。残りのGrand Cru Classéはほぼ全て第五級相当となりますので、新格付けからは除外しています。

 

将来的な“B”昇格を狙う、Grand Cru Classéの精鋭シャトー群と考えれば良いでしょう。

 

全体的に、コストパフォーマンスに優れたシャトーが揃っています。