2023年7月1日6 分
一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。前回に引き続き、今回もシャンパーニュ地方について学んでいきます。
シャンパーニュ地方に関する基礎的な情報は、無料のものが十分に存在していますので、本シリーズでは割愛しますが、その代わりにより深いところを探っていきます。
シャンパーニュ地方シリーズの第二回のテーマは、「クロ」と致します。
シャンパーニュ地方におけるクロ(Clos)は、他産地と同様に、「石垣で囲まれた単一畑」を意味します。
芸術的精度のアッサンブラージュで、その地位を確固たるものとしてきたシャンパーニュにとって、クロ・シャンパーニュは対極的な存在とも言えますが、クロの定義はあくまでも前述した「石垣で〜」の部分のみであり、クロ・シャンパーニュだからといって、単一品種とは限りません。
また、クロでは無い単一畑のシャンパーニュも、数多く存在しています。
わざわざ手間とコストのかかる石垣囲いを行ったのには、相応に理由が存在していると考えることは、決して間違いでは無いでしょう。
ただし、その理由が必ずしも「その葡萄畑が他を圧倒するほど高品質な葡萄ができるから」となるわけでもありません。
所有者の特別な(時に極私的な)想い、代々その畑を引き継いできたレガシー的側面など、様々な「ロマンス要素」がクロとなって現れた可能性も十分にあります。
一歩進んだ学びとしては、「クロ=最高品質とは限らない」を前提としておくのが良いですが、前回解説したトップ・グラン・クリュの中にあるクロは、流石の超高品質ワインとなります。
現在、ある程度知られているクロ・シャンパーニュの数は38(39とする数え方もあります)。
生産量ももちろん少なく、希少性は高く、ロマンス要素も抜群とあって、クロ・シャンパーニュは、ほぼ例外なく高額ワインとなっています。
39のクロ・シャンパーニュの中から、筆者が特に素晴らしいと感じているものを抜粋して、今回は簡単にご紹介します。
Clos des Goisses, Philipponnat. Mareuil-sur-Aÿ
いぶし銀の銘醸フィリポナ社のフラグシップ・キュヴェであるClos des Goissesは、クロ・シャンパーニュの中でも真っ先に体験すべきワインの筆頭候補として挙がります。かつてのエシェル・デ・クリュでは99%の格付けだったMareuil-sur-Aÿ村にある、急斜面の葡萄畑から、この偉大なシャンパーニュが生み出されます。セパージュはヴィンテージによって、ピノ・ノワールとシャルドネの比率が大きく変化しますが、ヴィンテージを問わず、
「Clos des Goissesの味」が常にそこにあります。まさに、偉大なテロワールの存在を、ワインそのものが証明していると言っても良いでしょう。ヴィンテージによって価格にばらつきがありますが、安ければ3万円台後半で入手できる点も魅力と言えます。
Clos du Mesnil, Krug. Le Mesnil-sur-Oger
クロ・シャンパーニュの中でも歴史の深い一本であり、その超高価格も含めて、全シャンパーニュのアイコン的存在の一つとも言えるのが、クリュッグ社のClos du Mesnilです。シャルドネに優れたLe Mesnil-sur-Oger村のクロですので、当然Blanc de Blancsとなります。そして、その個性もまた、Le Mesnil-sur-Ogerらしく、極端にミネラルと酸に偏った構成で、大変長熟ですが、飲み頃予測もまた難しいワインとなります。現在の流通価格は、最新ヴィンテージで20万円台半ば、少しでもヴィンテージが古くなると40万円を軽く突破します。
Clos d’Ambonnay, Krug. Ambonnay
クリュッグ社が手がけるもう一つのクロ・シャンパーニュが、Clos d’Ambonnayです。初ヴィンテージは1995年ですので、Clos du Mesnil(1979年が初ヴィンテージ)と比べると、まだまだ歴史の浅いワインとなりますが、その販売価格はClos du Mesnilを大きく凌ぐものとなります。ピノ・ノワールに優れたAmbonnay村のクロですので、こちらはBlanc de Noirsとなります。また、Ambonnay村の豊満な果実味、やや穏やかな酸という性質も相まって、Clos du Mesnilよりは、明らかに開放的な印象です。現在の流通価格は、70~80万円台後半となっています。
Clos Lanson, Lanson. Reims
現存する最古参ワイナリーの一つであるランソン社が、2006年を初ヴィンテージとしてリリースしたクロ・シャンパーニュが、Clos Lansonです。グラン・クリュの範囲内にありますが、葡萄畑はReimsの街中、ワイナリーのすぐ隣に位置しています。葡萄はシャルドネのみとなり、周囲の畑よりも少し温暖なマイクロテロワールを有しているため、明るいトロピカル風味が特徴的です。ランソン社が大切に管理してきた葡萄畑であり、その強い思い入れは、高い品質と共に、ワインでしっかりと表現されています。流通価格は3万円前後と、クロ・シャンパーニュの中では比較的安価な部類と言えるでしょう。
Clos Saint-Hilaire, Billecard-Salmon. Mareuil-sur-Aÿ
革新的なワイン造りで知られるビルカール=サルモン社が、1995年ヴィンテージから手がけてきたClos Saint-Hilaireは、フィリポナ社のClos des Goissesと同様に、Mareuil-sur-Aÿ村に葡萄畑がありますが、こちらはピノ・ノワールのみのBlanc de Noirsとなります。
また、Clos Lansonと同様に、このクロもワイナリーに隣接しているため、格別の思い入れがある畑となります。BdNらしく、開放的で力強い味わいが素晴らしく、ビルカール=サルモン社の緻密なワインメイキングと相まって、トップ・クラスのクロ・シャンパーニュとなっています。現在の流通価格は、12万円弱ほどとなっています。
Clos Jacquin, Pierre Callot. Avize
ややマイナーなシャンパーニュハウスが手がけるクロ・シャンパーニュの中でも、ピエール・カロ社のClos Jacquinは最も良く知られたものの一つと言えるでしょう。その理由は、ワインが素晴らしいから、に他なりません。シャルドネで名高いアヴィーズ村のクロですので、Blanc de Blancsとなります。アヴィーズらしい力強さや、太く硬質な酸は、Clos Jacquinの個性として凝縮されています。流通価格も2万円弱程度ですので、まずは何かクロ・シャンパーニュを体験してみたい方には、おすすめの一本となります。
その他のクロ・シャンパーニュは、リストという形で列挙しておきます。
リストでは、葡萄畑がグランクリュにある場合(加えて、畑の所在地が明示されている)のみ、併記致します。
素晴らしいクロ・シャンパーニュも多々ございますので、機会があれば是非お試しください。
なお、ボランジェ社の高名なV.V. de Françaiseはクロ・シャンパーニュの一つとされることもありますが、複数の畑がブレンドされておりますので、本稿では対象外と致します。
Clos de Bouzy, André Clouet. (Bouzy)
Clos Faubourg Notre Dame, Veuve Fourny.
Le Petit Clos, Jean Vesselle. (Bouzy)
Clos de Pompadour, Vranken-Pommery Monopole. (Reims)
Clos Cazals, Cazels Claude. (Le Mesnil-sur-Oger)
Clos des Bouveries, Duval-Leroy.
Clos de Cumières, Hervé Jestin.
Clos des Trois Clocher, Leclerc-Briant.
Clos des Champions, Leclerc-Briant.
Clos Saint-Sophie, Jacques Lassaigne.
Clos des Monnaies, Goutorbe-Bouillot.
Clos le Léon, Marc Hébrart.
Clos de l’Abbaye, Doyard.
Clos du Moulin, Cattier.
Clos des Bergeronneu, Bergeronneu-Marion.
Clos Virgile, Paul Sadi. (Beaumont-sur-Vesle)
Clos du Château de Bligny, Château de Bligny.
Clos Rocher, Gremillet.
Clos Mandois, Mandois.
Clos des Chaulins, Lombard & Medot.
Clos des Belavals, Person.
Le Clos à Doré, Monmarthe.
Clos des Maladries, Etienne Calsac. (Avize)
Clos Barnaut, Barnaut Bouzy(Bouzy)
Clos de la Somnanbule, Vranken. (クロとしてのリリースは無し)
Clos l’Abbé, Hubert Soreau.
Clos Jarot, Nowack.
Le Clos Jacquesson, Jean-Hervé & Laurent Chiquet.
Le Clos de Marzilly, Michel Fagot.
Le Clos des Futies. Vincent Charlot.
Le Clos Bourmault, Christian Bourmault. (Avize)
Le Clos 667, Patrick Boivin.