2023年1月6日6 分

SommeTimes’ Académie <40>(ワイン概論36:ポート3)

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、ポートについてさらに深く学んでいきます。

醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。
 

 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。

酒精強化ワイン概論 ­– ポート③

今回は、スペシャル・カテゴリーの中でも特に重要なものの解説を行います。

自分で楽しむなら、または販売するなら、一体どのカテゴリーを試してみるのか、ぜひ考えながら読んでいただければと思います。

・ヴィンテージ

ポートの中でも最も有名なカテゴリーですが、最も提供が難しいカテゴリーでもあります。IVDP(ドウロ・ポートワイン協会)により認定された最良の年の、さらに最良のワインのみがリリースを許される、ルビーのみならず、ポートを代表するワインです。

若いうちに飲んでもバランスが良く長大な余韻があり、世界でもトップクラスの品質を誇りますが、瓶熟のために大量の澱がボトリングの際に入れられています。この澱が長期の瓶熟成を可能にしますが、非常に口当たりが悪く(まるで粉薬のような)、開栓時にデキャンタージュで取り除くことがほぼ必須です。またポートの中でも最も酸化に弱く抜栓してからの状態変化が早いため、一般的に2,3日中には飲み切る必要があり、グラスワインでの提供などには向いていません。

伝統的には10人程度の人数でデキャンタを回しながら1本を楽しむものである、ということは覚えておいてよいかと思います。

ヴィンテージの中でも最も有名で最も高価なものが、キンタ・ド・ノヴァルのナシオナルです。接木されていない特別な区画から生まれるポートで、ヴィンテージにもよりますが、最新のものは1,000€を超えることも珍しくありません。

・レイト・ボトルド・ヴィンテージ(LBV)

もしルビーを気軽に1本長い間楽しみたいなら、またはグラスワインで提供したいなら、おすすめはこのLBVです。ヴィンテージのニュアンスがありながら、澱を含んでいないのでデキャンタージュの必要がなく、抜栓後2,3週間は大きな変化なく楽しむことができます。金額的にも手軽で、非常に扱いがしやすいのがこのカテゴリーです。熟成の必要は基本的にありません。

唯一注意する点としては、LBVにもUnfilteredとラベルに記載があるものがあります。こちらはLBVの中でも熟成のポテンシャルがあるものになりますが、澱があるためヴィンテージと同じようにデキャンタージュなどの扱いをする必要があります。

・熟成年数表示トゥニー

ルビーを代表するカテゴリーがヴィンテージであるなら、トゥニーを代表するカテゴリーは熟成年数表示トゥニーだといえるでしょう。特に40年や50年といったものは、味わいの深さや余韻の長さにおいてヴィンテージ以上だといっても過言ではありません。ただ、ヴィンテージのように、最良の年に最良のぶどうを使って造ったという、いわば一般的なワイン的考え方とは少し異なった捉え方が必要です。

ポートの造り手は、規模にもよりますが、トゥニーを熟成している樽を大量にストックしています。熟成年数表示トゥニーは10〜50年の5つのスタイルがあり、それぞれのスタイルの特徴を満たすように都度ブレンドが行われます。特に大きな造り手は継続的にリリースを行うため、リリースごとの味わいのばらつきを抑えることが必要となります。

この点において、考え方としてはシャンパーニュのNVやウィスキー、ブランデーなどと似ており、トゥニーはワインとスピリッツの間にあるような存在であるともいえるかもしれません。

熟成年数表示トゥニーを造るためには膨大なストックと長い時間が必要で、さらに熟成期間中の目減りが大きいため、特に30年を超えるようなものは、一般的にヴィンテージ以上の価格となります。高価ですが、通常は購入後の瓶熟が必要なヴィンテージと比べて、トゥニーはリリース直後から楽しめる点が大きなメリットです。

また、トゥニーは抜栓してからも1〜2ヶ月は味わいが落ちず、十分楽しむことができます。むしろ抜栓したてよりも少し経ったほうが味わいのまとまりがあるように感じることもあります。

以上の点から考えると、レストランなどでも扱いやすく、家庭でも気軽に楽しみやすいカテゴリーだといえるでしょう。ぜひ注目していただきたいワインです。

・コリェイタ

トゥニーポートの単一ヴィンテージがコリェイタです。最低7年間の樽熟成が必要で、収穫年と合わせてボトリングされた年も記載されています。

熟成年数記載トゥニーと比べると、生産量も少なく、見かけることはそれほど多くないかもしれません。しかし熟成年数記載トゥニーにはブレンドせず敢えて単一年でリリースするわけですから、それだけ品質が高く、特徴的なヴィンテージや樽が選ばれる傾向にあります。

最低7年の熟成なので、30年や40年の熟成年数記載トゥニーよりも価格的に手を出しやすいことが多いのも魅力です。ただし忘れてはいけないのは、あくまで規定は最低7年のみであるということ。つまり長い分にはどれだけ寝かせてもよく、長ければ長いほど一般的に味わいは向上しますし、価格も高くなります。

熟成年数は記載されている収穫年とボトリング年を確認すれば直ぐに分かります。一般的に同じワイン(ex: Taylor’s 10 years, Ferreira 30 yearsなど)を、味を変えないように継続的に出し続ける熟成年数記載トゥニーが、シャンパーニュのNV的だとすると、ヴィンテージのキャラクターだけではなく熟成の長さや造り手の意図が大きく反映され、多様性があるコリェイタはよりネゴシアン・マニピュランの細分化された世界だということができるでしょう。

・ヴェリー・オールド・トゥニー

スペシャル・カテゴリーには入りませんが、近年注目されているのがこのワインです。超長期間(多くは50年以上)の樽熟成を経た、正に液体の宝石。単一年のこともあれば、平均100年近いもののブレンドだということもあります。熟成により糖度と酸がより濃縮され、世界でも類を見ないワインです。

このカテゴリーが注目されるきっかけを作ったのがTaylor’sのScionというワインで、プレフィロキセラの時代のワインが2010年にリリースされました。

当然どれも非常に希少なワインで、リリースの本数も少なく、特別なデキャンターなどにボトリングされていることが多いです。金額はまちまちですが数千ユーロになることも珍しくなく、おそらく世界で最も高価なワインカテゴリーの一つでしょう。