2022年12月9日5 分

SommeTimes’ Académie <38>(ワイン概論34:ポート1)

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、ポートについて学んでいきます。

醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。
 

 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。

酒精強化ワイン概論 ­– ポート ①

日本ではどちらかというとシェリーの方が酒精強化ワインとしては知られていると思いますが、実は世界全体の販売量ではポートがシェリーを凌駕しています。(2019年で比較すると、シェリー 3060万リットルに対し、ポート7316万リットルと実に倍以上。)

意外でしょうか?

甘口では世界的に最高峰の品質と人気を誇りながら、少なくとも日本では甘さとアルコールの高さに、その魅力が隠されてしまっているようです。

シェリーと同様に多様で複雑なカテゴリーがあり、その点で理解の難しさもありますが、非常に深い魅力のあるワインでもあります。今回からはポートの世界を覗いてみましょう。

テロワール

ポルトガル北部のドウロ渓谷が、ポート用のぶどうが生まれる場所です。

ドウロ川の河岸に広がる段々畑は正に壮観のひとこと。昔の人々が自らの手で硬い岩を壊し、少しずつ整備していった石垣は数万キロに及び、この地のぶどう畑は2001年に世界遺産にも認定されています。

ドウロ川はスペイン中部を源流とし、スペインではデュエロ川と呼ばれます。リベラ・デル・デュエロやルエダ、トロなどの銘醸地をおおよそ東から西へと流れ、ポルトガルに入るとドウロやヴィーニョ・ヴェルデ南部を通って、ポルトで大西洋へと注ぎます。

ポルトガル北部に位置し、西には酸の高い白ワインで知られるヴィーニョ・ヴェルデがありながら、ドウロが一般的にぶどうの熟度が必要な酒精強化ワインの適地であるのはなぜか。

それはこの地の特殊なテロワールによります。

ヴィーニョ・ヴェルデとの間にはマラオンを始めとした山々が連なり、湿って涼しい大西洋の影響を弱めます。またドウロでは川が深い谷を通るため、ここに熱が溜まりやすく、このことが北部にありながらポルトガルでも最も暑い産地の一つとなる理由です。

ドウロの中でも大西洋に近い西側はより標高が低く、大西洋の影響も多少あるため、寒暖差は小さく雨量は700mm程度あります。それと比べるとスペイン国境に近い東側はより大陸性気候の影響が強いため、寒暖差が大きく冬には雪が降ることもあります。また雨量は500mm以下が普通で、かなり乾燥した気候となります。

このためドウロでは下流から、バイショ・コルゴシマ・コルゴドウロ・スペリオール(アッパー・ドウロ)の3つのサブ・リージョンに分けることができます。一般的にポート用のぶどう畑として最も重要視されるのが中央に位置するシマ・コルゴで、著名な畑のほとんどがここに位置します。

またドウロの土壌は片岩が主体で、一部外縁部に花崗岩がありますが、ポート用のぶどうのほとんどは片岩の土壌から産まれます。ぶどうの根はこの硬い岩の隙間を縫って伸び、数メートル下まで広がることも珍しいことではありません。

品種

ポートにおいて、品種は重要ではありません

というと、驚かれる方も多いのではないでしょうか。もちろんこれは多少言い過ぎなのですが、とはいえ他のワインと比べると品種の重要性が低いことはポートの大きな特徴です。

赤ではトゥーリガ・フランカ、トゥーリガ・ナシオナル、ティント・カオン、ティンタ・ロリス、ティンタ・バロッカなどが、白ではマルヴァジア・フィナ、モスカテル・ガレゴ・ブランコ、ラビガトなどが中心となる品種で、合計100種類以上の品種が認定されています。

品種が重要ではないというのは、この産地ではいまだに複数の品種が混植されている畑が多いこと、そしてポートの生産は通常複数の畑のワインをブレンドすることによります。つまりほとんどの場合で、商品としてリリースされたワインの品種ごとの割合はほぼ不明で、生産者すら知らないこともままあります。80年代以降、品種の特徴の研究が進み、品種ごとの栽培やブレンドの研究が進みましたが、今でも特に重要な畑は古木(Vinhas Velhas。ポートでは一般的に樹齢50年以上のものを呼ぶことが多い。)であり、古木の畑はほとんどが混植の畑だと考えて差し支えありません。

ポートのワインメイキング

酒精強化ワインであるポートですが、ワインメイキングの上で特徴的なポイントとして、ここでは二つ挙げておきます。

一つは酒精強化を行う、スピリッツ(アグアルデンテと呼ばれる)について。

多くの酒精強化ワインではアルコール度数が約96%のグレープスピリッツを使用しますが、ポートでは77%のものを使用します。96%のものはほぼピュアでスピリッツ自体のフレーバーはほとんどありませんが、比較して77%のものはアルコール以外の要素も多く、強いフレーバーがあります。(一般的にSpirityと呼ばれる、やや青い芝生のような香り。樽熟成をしていないグラッパなどを思い浮かべてください。)

そのため、特に樽熟成の短いルビーポートなどには、顕著にこのスピリッツの香りが現れ、ポートの特徴の一つになっています。

もう一つはラガールについて。

ポートの醸造では、ラガールと呼ばれる大きなプールのような発酵槽を使用することがあります。伝統的には花崗岩で作られており、ここで足踏みの破砕を行い、発酵を促しますが、ポートは発酵開始から数日後にはマストとジュースを分け酒精強化を行うため、それまでに十分な抽出を行うことが欠かせません。そのため足踏みはポートに必要なタンニンやフェノールなどを、短い期間で抽出することを目的に行われます。

さて、次回からはポートのスタイルとその違いについて詳しく見ていきましょう。