2022年10月22日5 分

SommeTimes’ Académie <35>(ワイン概論31:シェリー1)

最終更新: 2022年11月5日

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、シェリーについて学んでいきます。

醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。
 

 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。

酒精強化ワイン概論 ­– シェリー

今回からは世界を代表する酒精強化ワインのひとつ、シェリーを詳しく見ていきます。スペイン南部・アンダルシア地方で造られるこのワインは、多様なスタイルがあるのが特徴。産膜酵母が作り出すフロールの影響や独特のソレラシステムで知られますが、大きな特徴の一つとして、酒精強化ワインの中では珍しく辛口のワインが主体である産地でもあります。酒精強化としてアルコール度数は比較的低く、ペアリングなども含め活躍の余地の大きいワインではないでしょうか。デイリーワインとしても一本持っておくと非常に重宝します。

テロワール

スペインの中でもとりわけ暑く乾燥したアンダルシア地方が、シェリーの元となるぶどうを産みます。主に、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プレルト・デ・サンマタリアという3つの町を中心としたZona de Producciónと呼ばれる地域で栽培されていますが、たとえば地中海に近いサンルーカルと内陸に入ったところにあるヘレスを比較すると、より湿度が高くやや涼しいサンルーカル、特に乾燥して寒暖差の大きいヘレスといった特徴があります。これは造られるぶどうだけでなく、熟成される環境の違い、そして結果として味わいの違いへと直結します

一般的に雨量の少ないスペインの中でも特に乾燥している上に日照量も非常に多い過酷な産地ですが、シェリーは他のスペインの産地と比べて密植が可能で、さらに収量も取れます。(平均60-70hl/ha)

これを可能にしている理由は主に二つあり、一つはシェリーがそれほどぶどうの高い成熟度が必要ないワインであることです。この点は、同じく非常に収量の多いシャンパーニュと似ているとも考えられます。つまり共にぶどうそのものよりも熟成段階で生まれるフレーバーの方が大切だということですね。

そしてもう一つが、アルバリサと呼ばれる真っ白い土壌がここに広がっていることです。これは石灰岩と粘土、雲母などが混ざった土壌で保水力に優れ、乾燥したこの地で効率的に水分をぶどうに供給することができます。

品種

全体の約97%はパロミノです。この品種はニュートラルで品種個性に乏しく、乾燥した場所でも多くの収量を得ることができます。つまり一般的には品質においてあまり魅力的な品種とは言い難いのですが、熟成におけるフレーバーが何より重要であり、品種個性を必要としないシェリーにはむしろうってつけの品種であるということができます。

残りはモスカテルペドロ・ヒメネス(PX)が栽培されていますが、どちらもソレオと呼ばれる天日干しの工程を経て糖度が濃縮され、それぞれの品種の名前のついた甘口のワインになります。

ちなみに同じアンダルシアでシェリーとよく似たスタイルのワインを造る産地として、モンティーリャ・モリレスが挙げられますが、こちらはより内陸であることもあり、フィノなどの辛口のスタイルも含めパロミノではなくPXを使用します。熟成もアンフォラを使い、できるワインもシェリーと比較してより酸の穏やかなスタイルですので、こちらもぜひ覚えておくといいでしょう。アルベアルなどが著名生産者です。

生物学的熟成と酸化的熟成

さて、シェリーについて考えていく上で重要なのがフロールです。

ここで大切なのは、シェリーの全てがフロールの影響を受けているわけではないということです。

シェリーは特にパロミノを用いた、5g/L以下の辛口のものが生産の中心ですが、このドライ・シェリーのカテゴリーには生物学的熟成と酸化的熟成と呼ばれる二つの熟成方法があり、いわゆるフロールを発生させるのは生物学的熟成のほう。このフロールがワインの中のアルコールを代謝してアセトアルデヒドを生産するため、青りんごカモミールなどの独特の香りをワインに与えることになります。また同時にワインの中のグリセロールを代謝するので、ワインは非常に辛口になります。さらにフロールが表面に張ることでワインが酸化から守られます。

フロールは酵母なので、アルコールが高すぎたり、ワインの中の栄養を消費してしまうと生きていくことができません。そのため酒精強化をする場合、アルコール度数は最大15.5%以下に留めておく必要があり、継続してより若い、栄養の豊富なワインから補酒(トッピング)を行うことで栄養を与える必要があります。

このようなことを行わず、フロールがない状況で熟成させることを酸化的熟成と言います。フロールがないためワインは酸化し、褐色へと色が変化します。生物学的熟成と比べて安定的に長期の熟成が可能で、数十年に渡る熟成を行うこともあります。

シェリーは主にこの二つの熟成方法を使い分けることで、多様なカテゴリーを造り分けています。

次回はこのカテゴリーを丁寧に見ていきましょう。