2022年10月4日6 分

SommeTimes’ Académie <33>(ワイン概論29:シャンパーニュ醸造 5)

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、スパークリングワインの世界的スタンダードであるシャンパーニュの醸造フローを学んでいきます。

醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。


 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。

なお、煩雑なシャンパーニュ醸造のシリーズにおいては、なるべく理解を容易にするために、通常のSommeTimes’ Viewではなく、POINTとして要点を押さえていきます。
 

 

また、本シリーズでは、あくまでも「シャンパーニュ」の醸造法に関して述べており、「シャンパーニュ製法」「トラディショナル製法」等、他産地で採用されているものとは、規定が異なることが多いので、注意してください。

ルミアージュ

瓶内二次発酵の終わったワインから、ボトルを少しずつ傾けながら瓶口に澱を集めていく作業をルミアージュと呼びます。クラシックな「ピュピトル」(瓶を固定しながら回すことができる穴が多数空いた木製の台)を使った手法は、19世紀初めごろにヴーヴ・クリコ・ポンサルダンとアントニ・ミュラーによって発明されました。シャンパーニュをシャンパーニュたらしめる、画期的な発明の一つと言えます。ピュピトルを使ったルミアージュの場合、平均して30~45日程度の日数がかかり、熟練した専門の職人も必要となります。現代では、この作業を自動化できるジャイロパレット(ジロパレットとも)という機械でルミアージュを行うことが一般的で、この場合約1週間程度で完了します。シャンパーニュ地方におけるジャイロパレットの使用率は99%近いとも言われていますので、大量生産が基本のシャンパーニュをピュピトルと結びつけることはもはや難しいでしょう。一方で、シャンパーニュ製法という括りでみた場合、世界各地の小規模生産者によって、ピュピトルは今も変わらず使用され続けています。

POINT

ピュピトルとジャイロパレットの品質的な差に関しては、長年議論が行われてきましたが、現代では「両者間に品質差は無い」という結論に落ち着いたと言えます。厳密な話をすれば、ジャイロパレット使用の際は必須となる添加物であるアジュヴァンの存在、ルミアージュにかかる期間(=澱との僅かな接触期間の差)、ジャイロパレットがワインに与え続ける微細な振動など、ワインに影響を十分に与え得る要素がありますが、その差は

「ブラインドテイスティングで100%看破できるようなもの」では無いということです。

デゴルジュマン

ルミアージュを終えたワインの瓶口に溜まった澱を凍らせて、瓶内の気圧を利用して外に弾き出す作業をデゴルジュマンと言います。ルミアージュとセットで、最終的に透明な色調を作るための欠かせない工程です。デゴルジュマンは、ティラージュから最低でも12ヶ月経過しないと行えないという規定があります。シャンパーニュ以外では、このリミットよりも早くデゴルジュマンを行うこともありますが、一般的には12ヶ月よりも長く熟成期間をとることが品質向上に繋がると考えられています。手作業で行うデゴルジュマンは「ア・ラ・ヴォレ」と呼ばれ、熟練した職人によって行われます。現代でも、マグナムサイズ以上のボトルは、基本的にア・ラ・ヴォレにてデゴルジュマンが行われます。一方で、通常サイズのボトルでは、デゴルジュマンとドサージュを一気に行える機械を使った手法(ア・ラ・グラス)が一般的です。

POINT

ア・ラ・ヴォレとア・ラ・グラスの品質差に関しても、長年議論が繰り広げられてきました。ア・ラ・ヴォレは、ピュピトルによるルミアージュと同様に、非常にロマン要素の強い手法であることから、品質面での貢献を期待したいところですが、ここもまた一般論としては、品質差が生じないと考えられています。デゴルジュマンによって目減りしたワインと、次の工程であるドサージュの関係は極めて繊細と言えるため、大量生産ワインであるシャンパーニュにとっては、ア・ラ・グラスによる圧倒的な「安定性」の方が重要と考えるのが良いでしょう。

ドサージュ

門出のリキュール(リキュール・デクスぺディション)と呼ばれるものを添加する工程です。門出のリキュールに使用できる材料は、ティラージュ時に使用するリキュール・ド・ティラージュと同様ですが、門出のリキュールには一般的に亜硫酸も添加される点が異なります。

POINT

・目的:一般的に、ドサージュはシャンパーニュを甘くして飲みやすくするための工程と思われることが多いですが、その理解は正解の半分でしかありません。実際には、甘味と酸味のバランス調整、そして複雑さを加えるためにドサージュは行われます。非常に興味深いことに、Brut(12g/リットル以下)までの添加量であれば、門出のリキュールの添加量が増えるほど「甘く感じる」とは全く限りません。一方でExtra Dry(12g〜17g/リットル)以上のドサージュを行う場合は、添加量が最終的な甘さにより直結していくようになります。最終的なワインに感じる甘さは、あくまでも甘味と酸味のバランスによって生まれるものだと考えるのが良いでしょう。

・ゼロドサージュ:近年、Extra Brut(0~6g/リットル)やBrut Nature(3g/リットル以下)のシャンパーニュが急増しています。気候変動による収穫時のpH値上昇はその主たる理由の一つではありますが、実際にはより辛口へと向かいつつある嗜好の変化や、過度のドサージュがテロワール表現を濁らせるという考えも大きな影響を与えています。一部のシャンパーニュが超大量生産型の「工業製品」から、より緻密なテロワールを表現した農業製品へと回帰しつつあることの現れとも言えるでしょう。

・熟成:ドサージュ量の低いシャンパーニュは熟成能力が落ちると考えられてきましたが、この点に関しては十分に議論の余地が残されています。特にブラン・ド・ブランに関しては、ドサージュによって熟成能力が落ちるとは到底考えられないようなケースが多々あります。一方でしっかりとドサージュを施したシャンパーニュが、メイラード反応をかすめるような熟成をした場合、驚くほど複雑な味わいへと変貌することもあります。なんの変哲もない超大量生産型のNVスタンダードシャンパーニュが、驚異の液体へと偶然生まれ変わるのもまた、ロマンに満ち溢れていると言えるのでは無いでしょうか。