2022年4月20日5 分

SommeTimes’ Académie <26>(ワイン概論22:ロゼワイン醸造)

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、一般的なロゼワインの醸造フローを学んでいきます。

なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記し、英語が一般的で無いものに限り、フランス語で表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。


 

 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください


 

 

セニエ(Saignée)

ロゼワインの製法としては、最も一般的な手法の一つがセニエです。黒葡萄を使用して、破砕するまでの流れは赤ワインと同様です。破砕後〜主発酵初期段階のどこかのタイミングで、タンクから果汁を抜き出す工程自体をセニエ(血抜きという意味)と呼び、セニエによって抜き出した果汁を最後まで発酵させたものを、セニエタイプのロゼと呼びます。

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赤ワインと同様の工程を辿る手法であることから、色が濃く、渋味も強いと誤解されることの多いセニエタイプのロゼですが、実際はセニエを行うタイミングによってその性質が大きく変化するため、ロゼの手法の中でも最も豊かな(色調、渋味の)ヴァリエーションがある手法と理解するのが正しいでしょう。また、セニエタイプのロゼは、赤ワインを作る過程で生じた二次産物であるケースもあります。果汁を抜き出すことによって、マスト中における果汁に対する果皮の比率が大きくなるため、より濃厚な赤ワインに仕上げることができるようになるからです。この情報だけでは、セニエタイプのロゼの品質が劣るように感じてしまうかも知れませんが、決してそんなことはありません。むしろ、赤ワインの濃度を高める過程で抜き出した果汁を無駄にしないための、極めてサスティナブルな手法と評価すべきでしょう。製法上、実質的には「色の薄い赤ワイン」とも言えます。

ダイレクト・プレス(Direct Press)

セニエと並んで、ロゼのスタンダードな製法の一つです。赤ワイン的な造りをするセニエとは違い、ダイレクト・プレスは白ワイン的です。場合によっては主発酵の初期段階までが果皮を漬け込むことがあるセニエに対し、ダイレクト・プレスは基本的に破砕後、短時間の間に圧搾まで行ってしまいます。

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白ワイン的な作り方であることから、非常に淡い色調と味わいになる傾向があります。圧搾の強度を上げれば、理論的にはより抽出の強いダイレクト・プレスタイプのロゼを造ることができますが、雑味が多く出てしまう懸念から、一般的ではありません。また、タンクの一部分しかロゼとして使用できないセニエとは違い、ダイレクト・プレスは全量がロゼ用となります。破砕から間もないタイミングでセニエを行ったロゼとは、非常に似た性質になりますが、セニアが赤ワイン醸造の過程として行われた場合、原料となる葡萄が、より熟したタイミングで収穫されている可能性も高まります。後述するその他の調整を行わないダイレクト・プレスタイプのロゼは、実質的には色の薄い赤ワインというよりも、ほぼ白ワインと考えた方が正確でしょう。


 

ブレンド(Blend)

ロゼにおけるブレンドは、狭義と広義に分かれます。狭義では、赤ワインと白ワインを混ぜる、という手法になりますが、広義では、ロゼワインにその他のワイン(基本的に赤ワイン)を混ぜるという手法になります。前者はより広範な目的で行われますが、後者は一般的には色調の調整を目的として行われます。

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白ワインと赤ワインを混ぜるブレンドが、シャンパーニュの例外を除いてEU圏では禁止されている、という記述を非常に良く見かけますが、ここには嘘と誤解が含まれています。嘘は「シャンパーニュの例外」という部分です。実際には、「シャンパーニュ製法という例外」、とするのが正しく、イタリアのフランチャコルタ、スペインのカヴァ、フランス各地のクレマンなど、白ワインに赤ワインをブレンドできるアペラシオンはたくさんあります。これは、スパークリングワインというカテゴリーは、白、赤、ロゼとは完全に独立したカテゴリーであるという、一種の屁理屈のようなものです。誤解は「禁止」という部分です。これは、スティルのロゼワインを造る上で、「原産地呼称を名乗るのであれば」ブレンドは容認されない、という意味が正しく、ヴァン・ド・フランスといったカテゴリーでワインを出すのであれば、白ワインと赤ワインをブレンドしても問題はありません。一方ニューワールドでは、ブレンドに関する規定は無く、自由な発想で様々なロゼが造られています。

混醸(Co-fermentation)

黒葡萄と白葡萄を混ぜた状態で破砕まで行い、その後主発酵初期段階までにセニエするのが、混醸タイプのロゼです。つまり、基本的にはセニエタイプのロゼと同様ですが、そこに白葡萄が最初から加えられているという違いがあります。ロゼワインの製法としては、とても古いものと考えられています。

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混醸の場合、ある程度圧搾のタイミングが遅くても、白葡萄によってロゼらしい色調を保ちやすいため、しっかりと味わいを抽出できるというメリットがあります。その分のデメリットは細かな調整の難しさでしょう。このような特性から、ナチュラルワインの造り手や、現代的な洗練を嫌う懐古主義的生産者によって、積極的に採用されつつあります。大量生産に向く製法ではありませんが、ワインとしての品質はかなり高くなることもあります。この製法は今後、ますます増えてくると考えられます。

次回は、オレンジワインの製法について学んでいきます。