2022年3月22日6 分

SommeTimes’ Académie <24>(ワイン概論20:白ワイン醸造3)

最終更新: 2022年4月8日

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回から、一般的な白ワインの醸造フローを学んでいきます。赤ワイン醸造と重複する部分もありますので、適宜参考にしながら読み進めてください。

本稿の内容は、<ワイン概論16:赤ワイン醸造4>ともリンクしています。

同じ工程であっても、赤ワインと白ワインとではタイミングや目的が異なる場合も多々ありますので、注意してください。

なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。


 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください


 

 

8:熟成(Aging)

タンクや樽などで行われる熟成は、ワインを育てるという意味合いから、フランス語では「育成」を意味するElevage(エルヴァージュ)という言葉が用いられてきました。酸素透過率の高い容器アンフォラ)の場合、熟成中のワインが徐々に蒸発してしまう(天使の分け前、Angel’s Share)ため、定期的に補酒をして、容器内にワインをしっかりと満たし続けるようにします。この補酒の作業のことをフランス語でOuillage(ウイヤージュ)と呼び、英語での呼び名はUllage(アレージ)となっています。また、一部の白ワインでは、熟成期間中に澱を攪拌するBatonage(バトナージュ)という作業をすることによって、酵母からアミノ酸などの旨味を抽出します。

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白ワインを酸素透過率の高い容器(樽、アンフォラなど)で熟成させる場合、赤ワインよりも補酒(ウイヤージュ)の重要性が高くなると言えます。一般的な白ワインは、赤ワインに比べてポリフェノール含有量が少ないため、酸化に対して、より脆弱です。補酒を怠った場合、もしくはあえて極力行わなかった場合は、最終的なワインに大きな影響が出ます。補酒をあえて極力行わないスタイルの代表例は、伝統的なフランス・ジュラ地方の白ワインです。

基本的には、樽熟成による酸化のニュアンスは、赤ワインよりも白ワインの方が、顕著に出ます。また、赤ワインと同様に、樽のサイズが小さいほど、樽が新しいほど、そのニュアンスが強まりますが、白ワインの場合は補酒の頻度という要素も加わってきます。

9: 澱引き(Racking)、清澄(Fining)

熟成(育成)を経ると、(ポリフェノール、タンパク質、酵母の残骸などの混合物)が容器の下部に沈殿していきます。沈殿後に上澄み部分だけを別の容器へと移し替える作業を、澱引き(ラッキング)と言います。また、さらに透明度を高めたい場合は、清澄剤(卵白、ベントナイト、ゼラチン、タンニン酸など)を使用します。

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澱引きは、一部のナチュラル・ワインを除いて、通常は必ず行います。澱には強い風味(旨味も)がありますので、ワインから繊細な表現を奪い、場合によってはテロワールの特徴をもマスクしてしまいます。白ワインの場合は、酸化に対する脆弱性の問題から、澱引きの際に亜硫酸を少量添加することが一般的です。
 

 

10:濾過(Filtration)

フィルター遠心分離機を用いて、瓶詰め前にワインを濾過する工程です。
 

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濾過は、色調や透明度の調整の他にも、微生物的安定性(もしくは無菌に限りなく近い状態)を得るために行われることが一般的です。また、無濾過と表記されていても、大きな固形物(果皮、果肉、種など)の他に、混入物(主に虫など)もしっかりと取り除くために、最低限の荒い濾過(グロス・フィルトレーション)は行うことが一般的です。過去に一部のナチュラルワインでボトルに虫が混入したまま瓶詰めされてしまい、大きな問題となったこともあります。濾過に関しても、少量生産型の高級ワインでは敬遠される傾向がありますが、近年はフィルターの技術向上によって、ほぼ任意の成分だけを取り除くこともできるようになってきたため、濾過がまた一般的になる可能性も十分にあります。赤ワインと比べて味わいの要素が少ない白ワインでは、濾過が強すぎると、平坦な味わいに感じてしまうことも多いでしょう。その意味では、赤ワイン以上に、白ワインにとっては重要な工程とも言えます。

11:瓶詰め(Bottling)

ボトリングマシンを使って、ワインを瓶詰めする工程のことです。マシンを使わないボトリングは、現在ではほとんど行われていません。スピードや効率だけではなく、衛生面でも問題があるからです。特に酸化に弱い白ワインで、手ぐみが採用されるケースは極めて稀です。瓶詰め直前の亜硫酸添加は、赤ワインよりも白ワインの方がより多く添加する場合がほとんどです。

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ボトリングマシンやボトリング用のマシンラインは高価かつ、場所も取るため、小規模生産者のためにボトリング専門業者が、ボトリングラインを搭載したトラックでワイナリーを回ることも多くあります。

また、瓶詰め前と瓶詰め後でワインの味わいが大きく変わってしまうことが昔から良く知られており、ボトル・ショックとも呼ばれます。香りが減少し、果実味が固く閉じこもり、場合によっては酸が際立ってオフバランスとなるボトル・ショックは、その発生原因が完全に解明されているわけではありませんが、瓶詰め時にワインが極短時間の間に大量の酸素にさらされることが主因と考えられています。多種多様な酸化作用が全て同じスピードで処理されるわけではなく、一部の酸化作用は遅々として進まないために、ワインが酸化を経て再び調和を取り戻すのに時間がかかってしまうからというのが、ボトリング時の酸素負荷を主因と考える最たる理由と言えるでしょう。この点で言えば、酸素透過率の高いコルクの方が優れており、逆に酸素透過率がゼロであるスクリューキャップやガラス栓は、調和を取り戻すのに非常に時間がかかる可能性が高い、とも言えますが、亜硫酸添加(酸化防止剤)によって、ある程度の調整は十分に可能と考える造り手も多くいます。ボトル・ショックをなるべく避けるため、瓶詰めしたワインを追熟(単純に、品質面から追熟するケースも多くありますが)して出荷するケースも多くあります。

ボトル・ショックは長距離輸送によってもある程度生じます(厳密にいうと違いますが、似たような香り、味わいの変化が生じます)が、瓶詰め時に比べれば軽度とされており、比較的短時間(数週間〜数ヶ月)で戻ることが一般的です。

一般論で言うと、赤ワインよりも白ワインの方が、瓶詰め後の管理はしっかりと行う必要があります。多くの場合、亜硫酸添加等で造り手も対策をしていますが、白ワインの方が酸化に弱いという事実は変わらないままです。