2021年11月23日7 分

SommeTimes’ Académie <20>(ワイン概論16:赤ワイン醸造4)

最終更新: 2022年4月8日

一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのがSommeTimes’ Académieシリーズ。初心者から中級者までを対象としています。今回は、一般的な赤ワインの醸造フローを学ぶシリーズの第四弾となります。熟成から瓶詰めまでの流れを追っていきます。

なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。


 

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes’ Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください

9. 熟成(Aging)

タンクや樽などで行われる熟成は、ワインを育てるという意味合いから、フランス語では「育成」を意味するElevage(エルヴァージュ)という言葉が用いられてきました。酸素透過率の高い容器アンフォラ)の場合、熟成中のワインが徐々に蒸発してしまう(天使の分け前、Angel’s Share)ため、定期的に補酒をして、容器内にワインをしっかりと満たし続けるようにします。この補酒の作業のことをフランス語でOuillage(ウイヤージュ)と呼び、英語での呼び名はUllage(アレージ)となっています。

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育成期間中は、重力による自然な清澄作用、フェノール類の重合による沈殿作用によって、色調を安定化させることができます。この作用は、酸素透過率の高い容器(樽)の場合、酸素との接触によって緩やかに酸化しつつ、より強い効果を発揮します。また、補酒や温度管理を正しく行えば(酸化は高温環境下で促進される)、ネガティブな酸化は極限まで抑えつつ、より複雑な風味を得ることができます。この微小な酸化効果は、樽のサイズが小さいほど強く、大きいほど弱くなります。つまり、小樽の方が早く育成させることができるということになります。また、古い樽になればなるほど酸素供給力が低下していくため新樽の方が早く育成できます。アンフォラは酸素との接触を促進させて複雑さを高めつつも、ワインに風味を足すことはほとんどないため、比較的ニュートラルな特性とされています。酸素透過率の低い容器ステンレスタンクコンクリートタンク等)の場合、風味への直接的な影響は少なめとなります。

*樽に関して*

樽を作成する際には、成形時の焼き曲げ加工と、成形後に樽の内壁を火であぶりながら焦がす(トースト)作業を行います。

焼き曲げの際には、ヴァニラ香の元となるヴァニリンや、ココナッツ香の元となるオークラクトンが生成されます。これらの成分は、ヨーロッパ産のオークでは全体的に控えめで、北アメリカ産のオークでは強めに出てきます

トーストの強弱も、ワインの風味に大きな影響を与えます。一般的には、トーストが強いほど、ロースト香(薫香、コーヒー、エスプレッソ、キャラメルなど)が強く抽出される一方で、タンニンの抽出はトーストが弱い方が促進されます。この効果は一長一短ですので、最終的な目指す味わいによって、造り手の特徴が強く反映される部分となります。

世界各地で、小樽のことをバリックと呼ぶ傾向がありますが、実際には225Lのバリック(ボルドー型)228Lのピエス(ブルゴーニュ型)の2種類があります。「ブルゴーニュの伝統に習ってバリック熟成」といった言い回しはかなり不自然なので、少し気をつけてください。

なお、新しいフレンチオークの小樽は、一樽あたり10~15万円前後という高級品です。当然、このコストはワインの価格に跳ね返ってきますので、コストを抑えつつ新樽風味を実現する手段として、オークチップが使用されることもあります。品質面では、オークチップは決して本物の木樽には及びませんし、偽物的なイメージから強く批判されることも多くありますが、近年はサスティナブルな手法として再評価されつつあります。

10. 澱引き(Racking)、清澄(Fining)

熟成(育成)を経ると、(ポリフェノール、タンパク質、酵母の残骸などの混合物)が容器の下部に沈殿していきます。沈殿後に上澄み部分だけを別の容器へと移し替える作業を、澱引き(ラッキング)と言います。また、さらに透明度を高めたい場合は、清澄剤(卵白、ベントナイト、ゼラチン、タンニン酸など)を使用します。

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澱引きは、一部のナチュラル・ワインを除いて、通常は必ず行います。澱には強い風味(旨味も)がありますので、ワインから繊細な表現を奪い、場合によってはテロワールの特徴をもマスクしてしまいます。澱引きにポンプを使用した場合、ワインに対して強い酸素負荷がかかってしまうことから、最も近代的なワイナリーでは、醸造所をグラヴィティ・フローという構造にして、ポンプを使わずに重力で自然にワインを移す方法が人気です。

高級ワイン(特に少量生産タイプ)に関しては、清澄をする割合は減少傾向にあると言えます。また、近年人気のヴィーガン認証などでは、一部の清澄剤(卵白、ゼラチン)が引っかかってしまいます。

11.濾過(Filtration)

フィルター遠心分離機を用いて、瓶詰め前にワインを濾過する工程です。

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濾過は、色調や透明度の調整の他にも、微生物的安定性(もしくは無菌に限りなく近い状態)を得るために行われることが一般的です。また、無濾過と表記されていても、大きな固形物(果皮、果肉、種など)の他に、混入物(主に虫など)もしっかりと取り除くために、最低限の荒い濾過(グロス・フィルトレーション)は行うことが一般的です。過去に一部のナチュラルワインでボトルに虫が混入したまま瓶詰めされてしまい、大きな問題となったこともあります。濾過に関しても、少量生産型の高級ワインでは敬遠される傾向がありますが、近年はフィルターの技術向上によって、ほぼ任意の成分だけを取り除くこともできるようになってきたため、濾過がまた一般的になる可能性も十分にあります。

12. 瓶詰め(Bottling)

ボトリングマシンを使って、ワインを瓶詰めする工程のことです。マシンを使わないボトリングは、現在ではほとんど行われていません。スピードや効率だけではなく、衛生面でも問題があるからです。

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ボトリングマシンやボトリング用のマシンラインは高価なため、小規模生産者のためにボトリング専門業者が、ボトリングラインを搭載したトラックでワイナリーを回ることも多くあります。

また、瓶詰め前と瓶詰め後でワインの味わいが大きく変わってしまうことが昔から良く知られており、ボトル・ショックとも呼ばれます。香りが減少し、果実味が固く閉じこもり、場合によっては酸が際立ってオフバランスとなるボトル・ショックは、その発生原因が完全に解明されているわけではありませんが、瓶詰め時にワインが極短時間の間に大量の酸素にさらされることが主因と考えられています。多種多様な酸化作用が全て同じスピードで処理されるわけではなく、一部の酸化作用は遅々として進まないために、ワインが酸化を経て再び調和を取り戻すのに時間がかかってしまうからというのが、ボトリング時の酸素負荷を主因と考える最たる理由と言えるでしょう。この点で言えば、酸素透過率の高いコルクの方が優れており、逆に酸素透過率がゼロであるスクリューキャップやガラス栓は、調和を取り戻すのに非常に時間がかかる可能性が高い、とも言えますが、亜硫酸添加(酸化防止剤)によって、ある程度の調整は十分に可能と考える造り手も多くいます。ボトル・ショックをなるべく避けるため、瓶詰めしたワインを追熟(単純に、品質面から追熟するケースも多くありますが)して出荷するケースも多くあります。

ボトル・ショックは長距離輸送によってもある程度生じます(厳密にいうと違いますが、似たような香り、味わいの変化が生じます)が、瓶詰め時に比べれば軽度とされており、比較的短時間(数週間〜数ヶ月)で戻ることが一般的です。

赤ワイン編の最終回となる次回では、赤ワイン醸造におけるその他の要素(カルボニック・マセレーションやセニエなど)に関して学んでいきます。