2021年10月5日5 分

SommeTimes’ Académie <17>(ワイン概論13:赤ワイン醸造1)

最終更新: 2022年4月8日

本稿から4回に渡って、一般的な赤ワインの醸造フローを学んでいきます。なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる英語にて表記します。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください

① 選果(Sorting)

健全な葡萄を選り分ける工程手摘みの場合は、畑でも実質的な選果が行われることが多いです。ワイナリーに葡萄が運ばれると、選果台と呼ばれる台に乗せられ、ベルトコンベアー式の選果台では目視しながら手作業で、光学式(非常に高価)等の場合は、選果台そのものが選果を行います

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選果という工程は、必ずしも取り入れられる訳ではありません。特に手摘みの場合は、実質的な選果を兼ねている側面も強いため、ワイナリーで選果を行わないケースも多々あります。これは、コスト面の問題もありますが、スタイル面での選択というケースもあります。選果はクリーンなワインを造るには欠かせない工程ですが、クリーン過ぎるワインを嫌う流派(主に伝統派)も実際にはかなり存在しているため、選果の「度合い」は各々のワイナリーが、造りたいワインのスタイルによって変えているのが現状です。つまり、選果とは品質と関係したものというよりも、むしろスタイルに密接な関係があると言えます。

② 除梗(Destemming)、全房(Whole Bunch)

果梗を取り除いて、葡萄の果実だけにする工程。除梗を行わない状態を全房と呼び、全房の場合は全房比率95% といったように、比率と共に表記されることが多いです。なお、果実を房から叩き落とすような方法で収穫する機械収穫の場合、全房にはなり得ません。また、除梗した葡萄は選果しやすくなるため、選果よりも先に除梗するケースや、除梗後に再び選果するケースもあります。除梗は手や網で行う場合も、機械で行う場合もあります。

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完全除梗と全房発酵の差を、ピュア(除梗)と複雑(全房)と表現するのは、あまりにも短絡的です。両者間に存在している差異は、あくまでもスタイルの違いと捉えるのが正しいでしょう。完全除梗の場合、赤ワインの発酵に関連する葡萄由来の要素が、果皮、種子、果肉に限定されますが、それだけでも十分な複雑性を得ることができます。また、ヒューマンエラーが起こりにくいことも利点として挙げられます。一方で、全房発酵には高い経験値と観察眼、そしてセンスが必要になります。基本的に緑色の果梗は「青い風味(緑野菜的な風味)」の元となるメトキシピラジンをより多く含んでいるため、使用には慎重を期す必要があるとされています。メトキシピラジンは適量なら清涼感をもたらしますが、過度になると支配的になり、バランスを破壊しかねないからです。その点も踏まえ、全房発酵の際は茶褐色化した(フェノールが生理的成熟に達した)果梗が用いられる比率の方が遥かに高いです。全房発酵は、フレッシュさをもたらす、酸をまろやかにする、タンニンを滑らかにする、テクスチャーを増強する、スパイシーな風味をもたらす、過剰な果実味を抑制する、アルコール濃度を下げるといった様々な効果をもたらすと考えられています。

③ 破砕(Crush)

葡萄の果皮を破いて、果汁、果皮、果肉、種子が混合したマスト(日本語では醪:かもろみ)を得る工程。破砕は除梗破砕機を使用して、除梗と一括して行われることが多いです。また、足踏みによる伝統的(古典的)な破砕も小規模ワイナリーでは現役を貫いています。稀にですが、手で優しく握り潰すように破砕するワイナリーもあります。なお、天然酵母で発酵させない場合は、このタイミングで亜硫酸(二酸化硫黄、酸化防止剤)が添加されることが多いです。白ワインの場合は、この工程の直後に圧搾へと移行することが多いです。

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足踏みによる破砕は、プリミティブな魅力に溢れる工程であると同時に、重力を利用した破砕方法でもあるため、マストに繊細さが宿ると考える造り手は多いです。しかし、相応のリスクも伴うケースがあります。そのリスクの中に、(足裏等に付着した)雑菌も含まれる可能性は捨てきれませんが、むしろ効率と速度に劣るため、マストが過剰に空気にされされたり「破砕待ち」葡萄の変質が起こり得る可能性を指摘する声もあります。どちらにしても、ずさんな管理と足踏みの相性が最悪であることは間違いありません。ロマンと品質は、必ずしも一致するわけではないという例とも言えます。一方で、除梗破砕機で繊細さが失われるとは一概には言い切れません。除梗破砕機には効率とスピードというメリットがあるため、足踏みによって生じ得るリスクを回避できる側面もある上に、繊細さという曖昧な要素が破砕方式のみに由来すると断定するには、ワイン醸造を取り巻く変数は多すぎるからです。

亜硫酸はマストの酸化を防止する役割を果たすと共に、抗菌、殺菌の役割も担い、酵母や細菌の繁殖を抑制します。つまり、後に添加する培養酵母が円滑に働くための環境を整えるという側面もあるということです。

次回以降は発酵の様々な段階に関して学んでいきます。