2021年6月30日5 分

SommeTimes Académie <11>(ワイン概論7: ブドウ中編)

試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください

前編では、ブドウの種属や、栽培適地に関する条件を学んで行ったが、中編ではブドウの生育サイクルについて学んでいく。

葡萄の生育サイクル

葡萄の生育サイクルや、それぞれの栽培行程に関する呼称はフランス語が長らく一般的に用いられてきたが、現代では英語が主流になっているため、(日本国内における試験対策はフランス語で勉強するべきだが)長期的に考えると英語での習得が望ましい

本稿では、ワインを学ぶ上で重要となる要素だけをピックアップして、解説していく。

それぞれの段階の目安となる月は北半球がベースとなっているため、南半球の場合は±6ヶ月で調整する。

また、気候条件、品種によって、それぞれの段階に入るタイミングが異なる点にも注意。

*11〜3月 冬季剪定 英:Winter Pruning 仏:Taille

葡萄樹が休眠期にある間に余分な枝を剪定する作業。仕立てを整備する、葡萄樹の健康を保つ目的の他にも、同年夏に結実する果実の量をコントロールする目的で行われる。

*3月〜 萌芽 英:Bud Break もしくは Bud Burst 仏:Débourrement

1日の平均気温が摂氏10度を越えた頃から活動が活発化し始め、芽が出てくる。近年は気候変動の影響によって、萌芽と遅霜のタイミングが非常にシビアな問題になっているため、話題に登ることが多い。品種によって、萌芽のタイミングが異なる。

*4~5月 芽かき 英:Bud Picking 仏:Ébourgennement

萌芽後、遅霜の懸念が無くなった頃に、成長後の樹勢をイメージしながら、新梢を適切な数に調整するために、不要な芽を切除していく。成長後の葉量にも直結するため、余計な養分競争を避け、より高品質な果実を得るための重要な作業と位置付けられている。芽かきによる収量調整は、後述する摘房よりも品質向上面における効果が高いと考えられている。

*6月 開花 英:Flowering 仏:Floraison

この頃に葡萄の花が咲く。開花から収穫までの日数は約100日間とされ、収穫日の目安となる要素として重要視されてきたが、近年は気候変動の影響、収穫時期の多様化によって、以前ほど重要な意味をなさなくなってきている

*6月〜 夏季剪定 英:Summer Pruning 仏:Rognage

一般的には、葡萄が成長しすぎないように先端を剪定して、成長点を切ることによって、養分や糖分をより集積させるために行う。しかし、あえて夏季剪定をせずに葡萄樹をより高く伸ばす方が、品質向上に寄与するという主張もある。両者で明確に異なる点は作業効率。夏季剪定をすれば、樹高を低く維持できるため作業効率が上がるが、しない場合は作業効率が悪化し、その分だけコストが嵩む。

*6〜7月 摘房 英:Green Harvest 仏:Vendange Vert

結実した果実がまだ緑色の段階で、間引きする作業。房の数を減らすことで養分と糖分を集積させる目的のほか、日当たりや風通しの調節のために行うことも多い。

*9月〜12月 収穫 英:Harvest もしくはVintage 仏:Vendange

一般的に、スパークリングワイン用、白ワイン用、赤ワイン用、デザートワイン用の順に収穫されるが、そのタイミングは産地と品種、そして目指すスタイルによって大きく異なる。手摘みは果実をよりデリケートに扱うことができ、選果も相当程度同時に行え、急斜面でも収穫できるが、時間とコストがかかるというデメリットがある。時間がかかるということは、鮮度との厳しい戦いを強いられることも意味するため、目指すスタイルによっては必ずしもプラス要素にはならない。手摘みの最大のメリットは、果実を傷つけずに収穫できることによる、品質の維持と無駄の少なさにあると言える。しかし、手摘み収穫は世界各地で収穫期の(後進国からの季節労働者に対する)搾取的労働環境を助長する可能性をたびたび指摘されている。

機械収穫は迅速に(安価に)収穫することができるため鮮度の維持においてメリットがある。この点は、特定のスタイル(ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランなど)にとっては、明確なアドヴァンテージとなる。多少傷ついた果実や腐敗果等が混入しても後の選果で相当程度対応できるが、葡萄畑は機械収穫に適したスペースと平坦さが求められるため、より広い面積の葡萄畑が必要になる点、機械の重みが土を押し固め、地中の生態系に影響を及ぼす点、機械収穫によって傷ついた果実が無駄になる点において、(当然排気ガスの問題も含め)サスティナビリティの問題がある。このように、それぞれ一長一短であるため、手摘みの方が優れているという一般的な品質的評価だけで良し悪しを判断すべきではない

SommeTimes’ View

生育サイクルの各段階における作業は、現代ではそのほぼ全てが幹、枝、葉、果実のバランスを整え、日照量や風通し(病害のリスクを減らすのに重要)を調整するキャノピー・マネージメント(樹冠管理。本来は葉の調節によって、果実への日照量をコントロールする考え方を指すが、現代ではその対象範囲が拡大している)の一部として、連動して考えられている。気候変動による遅霜の頻発、日照量の過剰供給などは、キャノピー・マネージメントの在り方を日々変化させており、従来の常識が崩れてきている。現段階では、どの新しい手法が正解なのか不明な部分も多く、過渡期にあると言えるため、継続的な検証と研究が求められる分野となっている。

ブドウ後編では、選抜方法や仕立てについて述べていく。