2022年11月16日3 分

Mission Impossible!? 火鍋とワイン

昨今の四川ブームで文字通り「火がついて沸き立つ」ような人気が出ている料理の一つ、火鍋。

火鍋は、中国・重慶市の郷土料理「重慶火鍋」に代表される「麻辣火鍋」(要するに、真っ赤な色をした強烈に辛い火鍋の類)だけとして食べることが伝統だったが、1980年代に入ると辛いものが苦手な人たちのために、内モンゴル発祥の濃厚な豚骨スープ(こちらは辛くない)を取り入れ、それぞれを「陰陽文様」を表した仕切りの左右に配置する「鴛鴦(ユアン)火鍋」が考案された。

筆者は日本で火鍋ブームが起きる随分と前に、香港で本場の味を体験しているのだが、正直なところ、実は「恐怖」として記憶に残っている。

失神しそうなほど辛かったのもそうだが、獄炎がごときスープに隠れた謎食材の数々こそが本当の恐怖だった。

おそらく何かしらの「ホルモン」と思われるその肉と思わしきものは、生粋のホルモン好きである私ですらも箸を置くほど強烈な見た目をしており、勇気をもってその謎肉を食べた私の後輩は、翌日見事に腹を下していた。

さて、今回の検証では(真っ当な)麻辣火鍋を題材にしていくのだが、これがワインにとって実に難しい料理なのである。

ワインの酸は「ある程度」の辛さに対しては対応することができるが、麻辣火鍋のレベルになると全く力及ばずという状態になる。

酸の力に、スパークリングワインの「泡」による物理的なさっぱり効果を足せば、もう少し有効なペアリングとはなるが、麻辣火鍋の凶悪無比なスパイス地獄を前にしては、もはやシャンパーニュでもプロセッコでもカヴァでも関係なくなる。

これでは美食的ペアリングとは到底言い難い。

では、逆方向の定番アプローチである「甘口ワインによるカウンター」、はどうだろうか。

これは理論的には有効な手段と言えるのだが、そもそも火鍋を食べたい人は、あのむせかえるような辛さを楽しみたいはずだ。それを、甘口ワインでかき消すというのはいかがなものかと。(甘いソースや、チャツネなどを使うことが多い)カレーと同様に考えることは、得策では無いように思える。

では、上級テクニックである「低アルコールとスパイス風味」でのアプローチはどうだろうか。シラー、グルナッシュなどの南仏系品種で、アルコール濃度が低いもの(ナチュラルワインだと探しやすい)であれば、スパイスの刺激を不必要に高めずに、風味を引き立てることができるかも知れない。

しかし、相手は火鍋である。そんなデリケートなアプローチなど余裕で吹き飛ばしてしまい、ペアリングとしての成立を大いに阻んでくるだろう。

行き詰まったように思えるが、この3パターンの複合ならいけるかも知れない。つまり、酸、甘、泡、低アルコール、スパイスを兼ね備えたワインなら、多方向からのアプローチによって、厚みのある美食的ペアリングとなるのでは無いだろうか。

その最有力候補となるのが、ランブルスコ(やや甘口タイプ)である。

火鍋とランブルスコのペアリングは、言い換えるなら「火鍋とコカ・コーラ」的ペアリングであり、不思議なほど火鍋の良さもしっかりと残すことができる、良ペアリングだ。

さて、今回は特別に、本来ならNG例となるパターンについてもご紹介したい。ただし、この方法は、辛い食べ物が好きで好きでどうしょうもない、という人限定のものである。

料理のスパイスとワインのアルコールは「火と油」の関係に相当するため、アルコール濃度が13%を超えた辺りから、明確にスパイスの「火」が強くなる。この特性に加えて、スパイス風味による調和を加えると、火鍋の辛さにさらにブーストをかけることができるのだ。

使いやすいのはアルコール濃度が15%を超える南仏系品種赤ワイン。

タンニンによる塩分のブーストを利用すれば、さらなる刺激も味わえるため、「とことんやる」なら若いワインの方が良い。

しかし、この検証後に、途轍もない「苦しみ」が襲いかかってくるか、異次元の「爽快感」に満たされるかは個人差が大きいため、あくまでも自己責任で行っていただきたい。