2021年12月4日3 分

真・日本酒評論 <2>:季節酒は季節の変わり目が一番旨い

<蒼空:純米酒 ひやおろし>

ひやおろし」とは、(前年の)冬に仕込んだ酒を春に一度火入れして安定させ、秋にそのまま(火入れせずに)瓶詰めして出荷される季節酒の一つ。

まろやかなで落ち着いた風味と、生酒(ひやおろしは正確には生詰め)らしい華やかさが絶妙に混じり合う味わいは、季節酒の中でも際立った個性になる。

秋の酒とは言っても、ひやおろしは早ければ9月の前半には出荷され始める。9月の前半は、まだまだ夏真っ盛りな地方も多い。なんとも気が早いリリースだ。個人的には、日本酒の季節酒には、(現状よりも遅めの)解禁日が設定されていても良いのではと感じている。現状、「如何に早くリリースするか」という競争が垣間見えてしまっており、品質第一では無くなっている部分があると感じるからだ。

それに、筆者の経験上(個人的な嗜好もあるが)、季節酒は次の季節の直前頃が一番旨い。だから「ひやおろし」は11月後半頃に飲む方が、まとまりが出つつ、味がノッてきて、私は好きだ。

今回テイスティングした京都の藤岡酒造が手がける「蒼空」も、11月後半に堪能した。

最盛期には8千石(1石=180L=一升瓶100本)という大きな規模を誇っていた藤岡酒造は1995年に一度閉鎖してしまったが、日本各地の蔵元で研修を重ね、自ら杜氏として戻ってきた五代目蔵元が、閉鎖から7年後の2002年に藤岡酒造を極小規模の酒蔵として再出発させた。

蒼空のひやおろしがリリースされるのは10月。味わい重視のリリースタイミングには、強い好感を覚える。また、藤岡酒造再建時からの特徴的な500mlのボトルも素晴らしい。多くの日本人にとって、2人で飲むなら500mlはちょうど良いサイズだろう。

蔵元:藤岡酒造株式会社

銘柄:蒼空

特定名称:純米酒

原料米:美山錦

精米歩合:60%

酒母:速醸

市場価格:1,800円(税別)

試飲日:2021年11月

蒼空 純米酒 ひやおろし』は、伏見の名水、伏見の女酒を、真正面から表現したかのような、驚異的な透明感、みずみずしい味わい、優しく、柔らかく、軽やかなテクスチャー、穏やかな旨味がまさに極上。口に含んだ瞬間から、湧き水の心地良い音が聞こえてくるようなトリップ感に浸れる。しかし、味わいの後半は急カーブを描くように、ドライな余韻へと変貌していく。ドラマチックといえば確かにそうだが、前半の夢心地からの急転ぶりには、少し戸惑ってしまう。好みが分かれるところだとは思うが、筆者としては、夢からはゆっくり覚めたいところ。

総合評価:88点

*真・日本酒評論は、筆者がワインにおいては忌み嫌う100点満点方式の評点を、日本酒を対象にあえて行っている。個性やスタイルが確かな価値として認められる土壌が出来上がっているワインに比べ、日本酒はまだまだ精米歩合をベースとした価値判断から抜け出し切れていない。いつかはこのような評点が意味をなさなくなる未来を待ち望みながら、しばらくの間、続けていくつもりだ。
 

なお、採点にあたって、精米歩合は一切考慮対象に入っていない。販売価格も一切気にしていない。あくまでも、その日本酒がもつ個性とスタイルの中での、完成度と洗練度を評価対象としている。よって、高価な高精米酒が低評価に、安価な低精米酒が高評価となるケースも当然出てくる。
 

試飲温度は、13度に統一して行っている。燗をしての試飲は、変数が増え過ぎるため行わない。

また、試飲の際に用いているのは、ワイングラスでは無く、伝統的な「ぐい呑」である。

筆者はこの取り組みを通じて、日本酒だからこそ達成できる価値を探ろうとしている。そのような取り組みにおいて、ワインコンプレックスの象徴たるワイングラスは不必要と考える。