2023年9月18日3 分
Masseria Frattasi, Capri Rosso 2021. 現地価格:約19,000円
過去10年間ほどを遡って、ワイン市場のトレンドを探ってみると、一つの興味深いジャンルが浮かび上がってくる。
島ワイン、だ。
栽培面積、生産量を鑑みると、特定の島ワインがトレンドになっていると言えるほどの流通量は無いため、ヨーロッパ各地の様々な島ワインを統合した、一つのジャンルとして捉えた方が実態に即しているだろうか。
ただし、このトレンドのきっかけとなったのが、イタリアのシチリア島であることは間違いない。
エトナ火山のネレッロ・マスカレーゼ(黒葡萄)とカッリカンテ(白葡萄)、ヴィットーリアを中心としたエリアのネロ・ダヴォラとフラッパート(共に黒葡萄)、そしてその量品種をブレンドしたDOCGであるCerasuolo di Vittoriaは、島ワインというマニアックなジャンルを、メインストリームに押し上げるに十分なほど、高次元で個性と品質が両立されたワインだった。
シチリア島産ワインの躍動によって、ワイン市場の最先端にいる人々の関心が、強烈に「その他の島ワイン発掘」へと向かうこととなった。
ギリシャのサントリーニ島(アシルティコ:白葡萄)は次のターゲットとなり、同国内ではさらにクレタ島(リァティコ:黒葡萄)にも注目が集まった。
フランスではコルシカ島(ニエルッキオ、シャカレッロ:共に黒葡萄)が、イタリアの他の地域としてはサルデーニャ島(カンノナウ:黒葡萄、ヴェルメンティーノ:白葡萄)が、スペインではカナリア諸島(リスタン・ネグロ、リスタン・プリエト:黒葡萄、リスタン・ブランコ:白葡萄)とマヨルカ島(マント・ネグロ、フォゴネウ:黒葡萄、ゴルゴラーサ、ギロ・ロス:白葡萄)が、ポルトガルではアソーレス諸島(ヴェルデーリョ、アリント、テランテス:白葡萄)が、それぞれタイミングは異なるものの、以前よりも格段に高い注目を集めるようになった。
各島の葡萄品種として列挙したのは、あくまでも選抜した例であるが、聞きなれない品種名がずらりと並んでいることからもわかるように、島ワインの魅力は、特異なテロワールだけでなく、個性豊かな葡萄品種にもあった。
品質は高いが、どこで作られたのか良く分からない国際品種ワインのトレンドは、ロバート・パーカーJr.の影響が弱まったと同時に収束し、その真逆とも言える「個性を全開にした」ワインが台頭し始めたのは記憶に新しいが、その中核を担っていたジャンルの一つは、島ワインなのだ。
さて、私自身も、島ワインの研究は熱心に重ねてきたのだが、今回イタリア・カンパーニャ州で、未知のワインと出会ったので、ここで記録しておこう。
その島の名は、カプリ島。
観光的には、「青の洞窟」で非常によく知られた場所だ。
この美しい島でワインが生産されていること自体は知っていたが、今回出会ったワインは、その頂点とも考えられる、強烈な一本だ。
造り手の名は、Masseria Frattasi。本拠地はナポリから北の内陸山間部へと進んだベネヴェント地方、タブルノ山の麓にあるが、彼らが誇る最高のワインは、カプリ島で生産されている。
葡萄品種はアリアニコ(全体の約80%)を主体に、14品種の混植。
樹齢1世紀を優に越える、プリ・フィロキセラの古い葡萄畑だ。
混醸されたそれらの葡萄は、カプリ島の謎めいたテロワールを、濃密に宿している。
果実、ミネラル、スモーク、スパイスが複雑に絡み合うアロマ。
しなやかな体躯には、万華鏡の如き色鮮やかな果実味と、流麗なミネラルが詰まっている。
少々新樽のニュアンスが強いのは、「高級ワイン」(ワイナリーのセラードア価格で、120、日本円で約19,000円)として売り出したいが故のご愛嬌といったところだが、その圧倒的な品質は、至高のエトナにも見劣りしない。
生産量は僅か2樽。
間違いなく、最も高価で最もレアな島ワインの一つだ。
本当に、島ワインの面白さは桁違いだ。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。