2021年12月18日4 分

出会い <4> ナチュラルなグラン・ヴィーノ

Goyo Garcia Viadero, Finca Valdeolmos 2016. ¥5,500

テンプラニーリョという葡萄は、まだまだ過小評価されているので無いでしょうか。リオハには数々の銘醸ワイン(協同組合の品質が恐ろしく高いのがリオハの特徴)がありますし、リベラ・デル・デュエロには、かの有名な「ウニコ」を造るベガ・シシリアや、かなり前にちょっとしたブームになった「ペスケラ」、カルト的人気と超高価格を誇る「ピングス」なんかもあります。

でも、こういった有名ワインはブランドとして有名なだけで、テンプラニーリョの地位を向上させているとは、あまり思えない側面もあります。もし本当にテンプラニーリョ自体が支持されているなら、有名では無いワインも、しっかりと売れるはずなのですよ、テンプラニーリョだから、という理由で

でも、現実はそう甘くありません。

色々とシノニム(同意語)が多いのも、テンプラニーリョの弱点の一つ。

リベラ・デル・デュエロでは、ティンタ・デル・パイスか、ティント・フィノ。

トロでは、ティンタ・デ・トロ。

ラ・マンチャでは、センシベル。

カタルーニャでは、ウル・デ・リェブレ。

これらのシノニムは全てテンプラニーリョを意味するという、壮大なしっちゃかめっちゃかぶりです。

ソムリエ試験やエキスパート試験に合格した人でも、試験後にはすっかりこのことを忘れてしまって、ティンタ・デル・パイスをテンプラニーリョと認識できないことが多々あるような有様です。

なんという不遇でしょうか、テンプラニーリョ。もういっそのこと、全ての州で呼び名を統一する法律でも作ってしまった方が良い気すらします

さて、ちょっとかわいそうな感じすらあるテンプラニーリョですが、その資質は本物中の本物

フランスでは、ブルゴーニュのピノ・ノワール、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロー。

イタリアでは、ピエモンテ州のネッビオーロ、トスカーナ州のサンジョヴェーゼ。

そして、スペインで、これらの有名黒葡萄&産地と肩を並べる組み合わせは3つだけ。

リオハのテンプラニーリョ。

リベラ・デル・デュエロのテンプラニーリョ(ティンタ・デル・パイス)。

プリオラートのガルナッチャとカリニェナ。

そういうランクにある葡萄なのです、テンプラニーリョは。

さて、今回の出会いは、リベラ・デル・デュエロのワイン。

造り手の名はゴヨ・ガルシア・ヴィアデロ

実はヴィアデロ家は、リベラ・デル・デュエロの歴史ある名家なのですが、ゴヨ・ガルシアは実家のワイナリーを継がず、フランス・ジュラ地方の伝説的なナチュラル・ワインの造り手であるピーエル・オヴェルノワから多大な影響を受けたことをきっかけに、独自路線へと進みました。

2003年に独立後は、葡萄畑であらゆる化学物質を排除したどころか、2003~2007年までの間の「葡萄畑のオーガニック転換期間」はワインを一切仕込みませんでした。

さすが、名家の出身!(つまり、おそらく、かなりリッチ)と言いたくなるところですが、相当な覚悟が無いと、例えお金があってもできることではありません。

ゴヨ・ガルシアのワインは古い伝統のままに、混植混醸(葡萄畑で色んな葡萄が混植され、醸造時も一緒に醸造)が基本。

亜硫酸(酸化防止剤)もどうやら全面的に無添加のようです。

このワインになぜ欠陥的特徴が強く出てこないのか?という疑問には、基礎中の基礎の部分が答えてくれていると思います。

・正しい場所に正しい葡萄品種が植えられている。

・オーガニックで厳格に栽培している。

・ちゃんとワインを造る。(適当に放置とかしない)

・しっかりと熟成させる。

やはり、基礎は大切です

ゴヨ・ガルシアは赤ワインのトップ・レンジとして、3種類の単一畑シリーズを造っています。それぞれ、砂質土壌を中心に、小石が多く混じる白砂質土壌、粘土の混じる赤砂質土壌、石灰が混じる赤砂質土壌となっていますが(土壌の話は難しいのでスルーしても問題なしです。)、最初の2つがブルゴーニュでいうところの一級畑相当だとしたら、最後の石灰と赤砂質土壌の畑から造られたワインだけは、特級畑の味がします

つまり、偉大なワインということです。

開放的で、多層的なアロマ。分厚い果実味と酸、図太いミネラル。伸びやかで力強い余韻。と、パワフルな印象のコメントを並べたくなる香りと味わいなのですが、実際には驚くほどの軽やかさがあります。

力強さと軽やかさ。矛盾する要素を調和の中で両立できるのもまた、偉大なワインの資質です。

リベラ・デル・デュエロという産地の名声、ワインそのものの完成度を考えると、正直なところ、3倍くらいの値段になっても納得してしまいそうです。

こういうワインがまだまだ出てくるスペインは、やはりいつまでも興味が尽きない偉大なワイン伝統国ですね。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。