2023年6月25日3 分

再会 <40> のんびりヌーヴォーの価値

Remi Dufaitre, Beaujolais Villages Nouveau 2022. ¥3000

11月の第3木曜日午前0時。

1985年の制定以降、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁を祝う瞬間として長年親しまれてきた、日本ワイン市場最大規模のイベントである。

近年はその盛り上がりも右肩下がりの傾向にはあったが、決定的な転機2022年に訪れたことを、記憶している人も多いだろう。

ロシアによるウクライナ侵攻が直接的な要因となって発生した燃料危機に伴い、現地での物価と空路での輸送費が高騰した結果、2022年度のボジョレー・ヌーヴォー輸入量は、前年比45%減ともされる量にまで落ち込んだ。

この数値は、サントリー社の統計によると、ピークを記録した2004年と比べると、なんと85%減にもなるとのことだ。

さらに、価格の高騰を押し切って輸入されたボジョレー・ヌーヴォーは、解禁日から半年以上経った現在でも叩き売りされている光景を頻繁に目にする。

生産者は輸出量減に苦しみ、インポーターは利益の圧縮に苦しみ、酒販店は在庫過多に苦しみ、消費者の多くはそっぽを向いた。

それが、2022年ヴィンテージのボジョレー・ヌーヴォーに突きつけられた現実だ。

しかし、その変化の中で、新たな潮流が生まれようとしていることを知る人は、ほとんどいないのでは無いだろうか。

そう、解禁日を無視した、レイト・リリース・ヌーヴォーの誕生だ。

そもそも、解禁日に間に合わせるためだけに、ワインの品質上極めて重要なエレバージュ(育成)の工程をごっそりと削る必要があったヌーヴォーに、長年違和感を抱いてきた造り手も少なからずいたのだろう。

ワインがしっかりと育ったタイミングで瓶詰めをし、輸送費の安い海路でゆっくり送る。

高品質なワインを消費者に届けたいと願う造り手たちが、マーケティングの都合上、長年実行に移すことができなかったプランが、ついに動き始めたのだ。

今回の再会に登場するのは、ボジョレー新世代を代表する造り手の一人、レミ・デュフェイトルのレイト・リリース・ヌーヴォー。

適切なタイミングまで育成を続けたワインは、もちまえのフレッシュ感はそのままに、ヌーヴォーらしからぬ奥行きと複雑性、長い余韻をもち、私が常々ヌーヴォーに感じてきた「違和感」の全てが、綺麗さっぱりと無くなっていた。

簡潔に表現するなら、それはまさに「見事なワイン」だったのだ。

改めて、問おうと思う。

解禁日は本当に必要なのか、と。

解禁日を無視することで、より高品質なワインをより安価で入手できるのであれば、私はその方が遥かに嬉しい。

レイト・リリース・ヌーヴォーの品質を見る限り、高々1~2週間程度の瞬間的な盛り上がりのために、犠牲になっているものが多すぎると言わざるを得ない。

もちろん、超大量生産(その過程における多大なる環境負荷も)、超大量の空輸、挙句の果ての叩き売りや、最悪の結果としての廃棄は、SDGsに照らし合わせてみても、何一つ良いところがない

ボジョレー・ヌーヴォー最大の顧客である日本のワイン市場は、いつまでもこのアンチ・サスティナブルな状況を無視し続けるべきではないと、私は今後も強く主張していく。

なかば「聖域」のように、ワイン業界によって守られてきたこのヌーヴォー市場は、時代に合った次のステージへ進むために、そして何よりも、収穫を祝う催事としての文化的価値を守り続けるために、自ら壁を突き破る必要がある。

そして、消費者の方々には、偏見無く、レイト・リリース・ヌーヴォーを味わってみていただきたい。

私がなぜ、解禁日は不必要と主張しているのか、ワインを飲めば、きっとお分かりいただけるかと思う。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。