2023年6月18日4 分

出会い <39> 偉大なワインの最高の飲み頃

Van Volxem, Riesling Wiltinger Schlangengraben 2002.

ワインはいつ開けても良い。

私が常にそう考えている理由は、数多くの先人たちによる、「偉大なワインは、若くても、熟成していても、美味しいものだ。」という類の意見に同調しているからでは無い

むしろ、「いつ飲んでも美味しい」には全くもって同意しかねる

「美味しい」という感想は、究極的に主観的なものであるため、当然、個々人の「好き嫌い」とは密接に関わっている

フレッシュな果実味が全開になった味わいが好きな人も、ほどほどの熟成を経て複雑性を増した味わいが好きな人も、長期熟成によって枯れた味わいが好きな人もいる。

少数派だとは思うが、ワインが若すぎて全然開いてない状態の方が好きな人もいるだろうし、果実味が跡形もなく抜け落ちるほどの熟成状態が好きな人もそれなりにいる。

その嗜好のヴァリエーションは無限大に限りなく等しいため、「美味しい」という主観を、「いつ飲んでも」というフルオープンなコンディションと連動させるのは、流石に無理があり過ぎる。

では、なぜそれでも私は、「いつ開けても良い」と考えているのだろうか。

それは、私が基本的にワインに対して、いついかなる時も「美味しさ」を求めているわけでは無いからだ。

葡萄畑のテロワール、葡萄品種、ヴィンテージの特徴、生産者の個性、熟成、そしてそのワインと出会ったTPO。

複雑極まりないマトリックスの結果として生じる「その瞬間の味わい」は、まさに一期一会

その経験は、コピーもリピートもリプロデュースも不可能なのだから、「飲み頃予想」などという、あまりにも曖昧なものに縛られるよりかは、その瞬間を楽しむことに振り切ってしまった方が、私は自由でいられる

そして、そんな私にとって、「美味しさ」は唐突なギフトのようなものだ。

予測も期待もそもそもしていないからこそ、そのギフトは強い輝きを放ちながら、ワインライフのアーカイヴにしっかりと刻まれる。

今回の「出会い」では、あえて私の完全に個人的な「美味しい」が、生涯忘れないであろうレベルで叶えられたワインの話をしよう。

ドイツ・モーゼル地方屈指の名醸造家として知られるゲルノート・コールマン(現在、Immich Batteriebergのオーナー兼醸造責任者)が、同地方の大銘醸としてその地位を確立したVan Volxemで、醸造長を務めていた時代に造った一本が、今回の出会いワインだ。

Van Volxemは、長い歴史を誇るワイナリーだが、2000年に現オーナーのローマン・ニエヴォドニツァンスキー氏が購入し、若きゲルノート・コールマンと共に、数々の革新をおこなった。

特に、「収量を落とさなくても品質を維持できる。」と言われるリースリングを、あえて低収量にして凝縮させたこと、「酸化に弱いという特徴から、しっかりと亜硫酸を添加する。」ことが常識とされるにも関わらず、徹底した管理のもとで低亜硫酸醸造を断行したことは、現在主流に置き換わりつつある、新たなジャーマン・リースリングの礎ともなった、革命的な挑戦だった。

Wiltinger Schlangengrabenは、V.D.P(ドイツの高品質ワイン生産者が集結した、強力な生産者団体)が定める特級畑(Großes Gewächs)の一つでもある、歴史的銘醸畑。

21年という熟成を経たこの特級畑リースリングは、メイラード反応的熟成香(香ばしさを伴う風味の変化で、リースリングでは一般的な熟成香の一つ)が、極上のカスタードクリームを思わせる風味となり、力強くみなぎる巨大な果実味、超高密度のミネラル、テノール的な酸の響き、永遠に続くかのような余韻と共に、私を「未体験ゾーン」の彼方へと瞬時に連れ去ってしまった。

この至高の「美味しさ」を完全再現することは残念ながら叶わないとは思うが、最高の造り手による、最高のリースリング(特級畑級)を、15~20年ほどベストコンディションで熟成させれば、似たような体験はできるだろう。

幸いなことに、長年不人気だったドイツ産辛口リースリングは、日本市場でも10年程度ならバックヴィンテージを探すことはそれほど難しくない。

コンディションの良いものを見つけたら入手して、あと5~10年ほど辛抱していただければと思う。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。