2023年6月10日3 分

再会 <39> ドイツで芽吹く、圧倒的な才能

Moritz Kissinger, Null Ohm Weiss 2021. ¥3900

オーストリア・ウィーン出身の映画俳優で、近年では007シリーズの犯罪組織「スペクター」の首領、フランツ・オーベルハウザー役の怪演でも知られるクリストフ・ヴァルツは、ドイツとオーストリアの違いを、「戦艦とワルツ」と表現した。

もちろん、戦艦はドイツの事を意味し、オーストリアがワルツだ。

確かに、保守的なだけでなく、腰深く構えてゆっくりと着実に直進していく「ドイツらしさ」を戦艦に喩えるのは、(オーストリア人らしいウィットに富んだ表現も含めて)何とも言い得て妙だ。

私自身は、そんなドイツの直進性と保守性が好きなのだが、分かりやすい変化や改革を望む声があるのも重々理解している。

オーストリアは、持ち前のアーティスティックな性質でもって、随分と前から南シュタイヤーマルクとノイジードラーセを中心に新たなスタイルを生み出してきたが、ドイツはどうなのだろうか。

どうか、ご安心いただきたい。

近年、Baden、Pfalz、Rheinhessenを結ぶトライアングルは、世界各国の最先端マーケットが熱烈な注目を寄せる、ニュースタイルの「ホットゾーン」となっているのだ。

このトライアングルの中で躍動しているのは、「超多様性国家」という、あまり知られていないこの国の「別の側面」をアイデンティティの奥底に宿した、新世代の若者たちだ。

新世代らしい自由な発想と、環境問題への強い意識、そしてドイツ人らしい職人気質が絶妙にブレンドした彼らのワインには、確かに世界中が驚いてもおかしくない、強烈な魅力がある。

今回の再会に登場するのは、そんな新世代の中でも、筆者が大注目株と見ているMoritz Kissingerのワイン。

Rheinhessenに拠点を置くWeingut Kissingerは、1983年にボトリングを開始したワイナリーだが、4代目のMoritzに変わってからビオディナミ農法を採用し、土壌のエネルギーを最大化させるために、彼自身が日々葡萄畑と真摯に向き合ってきた。

活気に満ちたMoritzのワインは、デビューから瞬く間に、大きな注目を浴びることとなったのだが、その成長スピードもまた凄まじい。

以前のヴィンテージからも、ただならぬポテンシャルを感じてはきたのだが、久々の冷涼な年となった2021年ヴィンテージでは、まさに驚くべき大進化を果たしたと言えるだろう。

特に、シャルドネヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)という、「似たもの同士」をブレンドして、最高に絶妙な樽によるトリートメントを施したNull Ohm Weissは、新世代ドイツの金字塔とでも呼ぶべき大傑作ワインとなった。

フラットな特性の2品種が互いの個性を引き出しあい、緻密なミネラルと疾走感溢れるエネルギーが縦横無尽に駆け回りつつも、適切な樽のタッチによって、全体がしっかりと引き締められている。

ビオディナミ、ブレンドの妙、樽使いのセンス、そしてMoritzの情熱と才能。

ドイツワインに関してはやや保守的な私の感性にも、その魅力はダイレクトに突き刺さってくる。

最後に、Moritz Kissingerが躍進する直接的なきっかけとなったと言われている、とあるドイツワインの「絶対王者」によるインスタグラムの投稿を紹介しておこう。

2005年ヴィンテージのアルマン・ルソー 特級畑シャンベルタンと、Kissingerの2018年シャルドネを並べた写真を投稿した王者は、「どちらのワインがより自分の心を掴むのかは、言い難い。」と短いコメントを添えた。

目覚ましい進化を遂げたドイツ新世代からは、しばらく目を離せそうにない。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。