2023年4月16日3 分

再会 <35> ワインは見た目によらず

Liszt, Traditionaliszt 2020. ¥4,000

ナチュラル・ワイン造りに挑む若者たちは、ラベルを「飾る」ことが多い。

デザイン性が高いラベルはインパクトも抜群で、それだけでも存在感は数倍増しになる。

それ自体は、実に素晴らしいことで、現代のカルチャーにも良くあっていると思う。

しかし、その高いポップ性は、なんとも悩ましい問題を引き起こしているように思えてならない。

いわゆる、「ジャケ買い」だ。

私自身、CD全盛期にはタワーレコードに入り浸ってジャケ買いを繰り返したものだ。

視覚だけで選んだCDの中には、ハズレもあれば、大当たりもあった。

これこそが、ジャケ買いの醍醐味である。

前情報無しに、未知のものと出会える。

そしてその中から、自分の感性とピッタリ合うものや、新たな扉を開いてくれるような作品に巡り合う。

その楽しさは、私自身が誰よりも良く分かっているつもりだ。

では、ワインのジャケ買いはどうだろうか。

ワインのジャケ買いが、CDやレコードのジャケ買いと同じ目的なのであれば、何の違和感も抱かない。

しかし、実態はどうにも異なっているように思える。

ワインに関わる様々な仕事をしている中で、「ラベルのデザインが良いワイン」というシンプル極まりないリクエストを受けることが、かなり増えてきているように感じるのだ。

これはつまり、「味は二の次だけど、見た目が何よりも重要」とも取れるようなリクエストだ。

もちろん、きっかけは「見た目」であったとしても、最終的にワインのことを好きになって貰えるのであれば大歓迎なのだが、本当の潜在的問題は、見た目の延長線上にある。

見た目さえ良ければ、どれだけ酷い完成度のワインでも肯定される。

もしそんな状況が慢性化したらと思うと、何とも言えない気分になるのだ。

私自身、長年に渡ってワインの外的情報(ラベルデザインに限らず、ブランド名や有名産地など)よりも、ワイン自体の内的情報(味わい)の方が遥かに重要だと訴え続けてきた。

まさにジブリ映画「もののけ姫」に登場するアシタカが語るところの、「曇りなき眼で見定め、決める。」ということだ。

見た目だけが重要、と言う世界線は、私が信じてきた大切なものとは真逆。

だから絶対に認めない、ということでは全く無いのだが、どちらかというと、行き場のない寂しさや虚しさを覚える、と表現するのが正しいだろう。

今回の再会ワインは、ジャケ買いの対象になりそうなデザイン性の高いラベルだが、中身は間違いなく一級品だ。

オーストリアの銘醸地ブルゲンラントを拠点とするWeingut Liszt

ワイナリー名の「Liszt」を英語の「~List」と掛け合わせて、Idealiszt、Artiszt、Touriszt、Solisztなど、実に印象的なワイン名を冠してリリースしている。

今回テイスティングしたのは、Traditionalisztというキュヴェ。

オーストリアの伝統的手法として、ウィーンを中心に復活を果たした混植混醸(ゲミシュター・サッツ)を採用したキュヴェとなる。

Traditionalisztが生まれる畑では、7種類ほどの白葡萄が混植されているようで、この手法らしい濃密なミネラル感と控えめ果実感が、低亜硫酸醸造ならではのソフトなテクスチャーで表現されている。

価格を遥かに超えたパフォーマンスから、オーストリアの底力をこれでもかと感じられる、大傑作ワインだ。

その極上の味わいが、「見た目重視」の壁を突破して、このワインを手にした方々にちゃんと伝わることを、個人的には願ってやまない。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。