2023年3月12日3 分

出会い <32> 広域キアンティに潜む宝

È Jamu, Zimbatò Chianti, 2021.

玉石混交のワイン産地、と聞いて私が真っ先に思い浮かべる産地はキアンティだ。

正確に言うと、平均点がずば抜けて高いキアンティ・クラシコ、エレガントなキアンティとして個性が確立しつつあるキアンティ・ルフィーナを除いた、その他のキアンティが対象となる。

それもそのはず、そもそもキアンティの名がつく原産地呼称が色々ある上に、範囲も異常に広いものから、極小エリアまでと、とにかくややこしい。

一応参考までに整理しておこう。

最も広域に渡っているのが、単純なChianti。

歴史的、品質的にも最も重要なのはChianti Classicoで、基本的には広域キアンティとは別物扱いになっている。

広域Chiantiの中には、さらに7つのサブゾーンがある。

中でも(唯一と言って良いレベルで)重要と言えるのは、Chianti Rufina。

そして、Chianti Montalbano、Chianti Colli Fiorentini、Chianti Colli Aretini、Chianti Colli Senesi(サブゾーンの中では最大)、Chianti Montespertoli(サブゾーンの中では最小)、Chianti Colli Pisaneが「その他」となる。

ClassicoとRufinaに関しては、相当程度はっきりとした個性と高い品質が認められるが、その他の6ゾーンに関しては、現地フィレンツェ在住の専門家をもってしても「体系的な理解は不可能に近い」と言わしめるほど、著しく一貫性に欠けている。

Decanter誌の大ベテランライターで、イタリアワインの専門家でもあるRichard Baudainsとフィレンツェで話した際には、「その他のキアンティに関しては、エリア特性がどうというよりも、広いキアンティの中の小さな村のワインだと思って、ワイナリー単位で楽しめば良い。」と言う金言も頂いた。

しかし、一貫性が無い、地域特性を見出し辛い、玉石混交の品質、歴史的に重要度が低い、といった事実のどれもが、そこに優れたワインが無いということには繋がらない

実際にはある。ただ、見つけるのが大変なだけだ。

フィレンツェ滞在時には、広域キアンティ(及びそのサブゾーン)とモレッリーノ・ディ・スカンサーノにテーマを絞った展示会にも参加した。

取材ターゲットはモレッリーノだったため、広域キアンティのテイスティングは残り時間で行ったのだが、リサーチをしっかりと入れる時間と気力も無く、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の精神で、少々不確かな「美味しいものセンサー」を稼働させて、直感のみを頼りにテイスティングして回った。

その日の「美味しいものセンサー」が不調だったのか、結局その他のキアンティがその程度のものなのかはなんとも言えないが、素直に美味しいと思えたワインに出会えた確率は、5%にも満たなかった。

さて、今回の出会いは、その日ただ一つの「大当たり」ワイン。

後に調べたところ、20代前半の姉弟が、ヴァルダルノ・ディ・ソプラ(キアンティから独立したDOCを獲得した、歴史的なエリア)にある古いファームでワインとオリーヴオイルを造り、È Jamuという名でリリースしているようだ。

栽培はオーガニック。ワインはクリーン&ナチュラルな造りで、牧歌的雰囲気が漂う、体に優しく馴染む絶妙な味わい。

È Jamuというなんとも聞きなれない言葉は、彼らの家族が一時的に住んでいたカラブリア州の方言で「Let’s Go」という意味らしい。

生産量も少なく、(優れたワインを探すのが難しい広域キアンティなので)インポーターのレーダーにもかかっていないようだ。

私としては、20代前半の若者たちが、マーケティング的には少々不利とも言えるエリアで頑張って造っている素敵なワインは、どうにも応援したくなってしまうものだ。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。