2023年2月18日3 分

再会 <31> 後継者

Le Casot des Mailloles, Blanc de Casot 2020.

引き継ぐ、というのはとても難しい。

そして、引き継がせる、というのもまた、とても難しい。

特に、特定の個人の特殊な能力や才能に頼っていた仕事を、引き継いだり引き継がせたりするのは、失敗が前提になるほどの難しさになりがちだ。

何を隠そう、私が身を置いているワイン業界、レストラン業界というのは、常にこの問題に悩まされ続けているのだ。

後継者が前任者と同等、もしくはそれを上回る能力、経験、才能をもっていれば問題はないのだが、前任者が傑出した人物であった場合、そのような幸運はそうそう巡ってこない。

もし、引き継いだ時点では能力、経験に劣っていたとしても、それを補ってあまりあるほどの情熱と努力をできる才能があれば良いのだが、そのような人物もまた、簡単に見つかるものではない。

となると、多くの場合、継承による劣化という運命を避けては通れなくなってしまうのだ。

だからこそ現代社会は、平均化を望む。それは技術による平均化であり、より現代的な話をすればロボティクスやオートメーションによる平均化だ。

私自身は、技術の進歩によって生まれた味わいに対して、完全に否定的なわけではない。例えば光学式センサーを備えた選果台が、手仕事では決して到達し得なかった次元のクリーンさをワインにもたらすことができるのは、十分に理解している。だが一方で、そのようなワインからソウルが失われている、と感じることもしばしばあるのだ。

保守的と思われるかも知れないが、単純な好き嫌いの話で言えば、私は「手仕事」の方が好きなジャーナリストであることは間違いないだろう。

今回の「再会」は、偉大な手仕事を引き継いだ、才ある若者のお話。

フランス・ルーション地方のル・カゾ・デ・マイヨールは、スペイン・カタルーニャとの国境付近に位置するバニュルスで、1994年から異次元のワインを造ってきた偉大な造り手。

創設者のアラン・カステックスジスレーヌ・マニエは、過酷な手仕事を強要する急斜面のテラス畑(トラクターはもちろん入れないし、直立することもままならない)と真摯に向き合いながら、このあまりにも特殊な葡萄畑が宿したテロワールを、ナチュラルな手法で美しく表現してきた。

ルーションのレジェンドとなったル・カゾ・デ・マイヨールが、ジョルディ・ペレスという一人の若者に引き継がれたのは2015年のこと。

2015年はアランと共に働いた引き継ぎ期間だったため問題なかったが、酷暑に見舞われた2016、2017年のヴィンテージは、少し不安と戸惑いを感じさせる出来栄えだった。しかし、2018年以降はジョルディの才が開花したように思えるほど、確かな進化を見せた。

ル・カゾ・デ・マイヨールが誇る「海辺のテロワール」はそのままに、より緻密さと繊細さが増したのだ。

アランとジスレーヌの時代のワインが、「清濁併せもった美しさ」だとすれば、ジョルディのワインは「洗練されたディテール豊かな美しさ」だ。

ワインの方向性は少し異なるが、品質としては甲乙つけ難い

今回「再会」したBlanc de Casotは樹齢20~100年のグルナッシュ・ブラン、グルナッシュ・グリ、ルーサンヌ、ヴェルメンティーノなどにマセレーション施したオレンジワイン。

亜硫酸は無添加だが、ネガティヴ要素は極めて少なく(ネズミ臭の兆候も無かった)、岩を舐めているようなミネラル感が液中を疾走する大傑作。

特殊な手仕事を引き継ぎ、自分のアイデンティティを加えて昇華させたジョルディには、最大限の賞賛を送りたい。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。