2023年1月29日3 分
ワインと共に生きる中で、様々な後悔に駆られることは少なからずある。
テイスティング会場で疲れ果ててしまい、途中で脱落した時などは、決まって後で後悔するし、同伴者が喜んでくれるだろう、と心から思ってワインリストをまじまじと眺めてやっと決めた選んだワインが、全然好みから外れてしまった時などは、後悔を超えて、一応プロとしては穴にでも入りたい気分になる。
当然、飲み過ぎたことによる後悔は数知れず。
素晴らしいワインを飲んでいたはずなのに、飲み過ぎてディテールを曖昧にしか覚えてない、というときは、「楽しかったから良し!」と自己弁護はするものの、後悔がずりずりと後ろ髪を引っ張り続けてくるものだ。
そんなさまざまなワインにまつわる後悔の中で、多くの人にとって筆頭に挙がるのは、「もっと飲んでおけば、もっと買っておけば良かった。」だろう。
10年前に一念発起してドメーヌ・ルロワをたくさん買っていれば、今頃小金持ちになれていたかも知れないし、それ以上にもっと飲んでおけば良かったと、10年前の自分に言って聞かせたいくらいだ。
しかし、私にとって最も頻出する後悔は、少し違う。
それは、「固定概念をもっと早く捨てていれば」という後悔だ。
さて、今回出会ったワインもまた、私の後悔の対象となってしまった。
美食の聖地「サン・セバスチャン」は、スペイン中央北部のバスク地方にある。また、現在はサッカー日本代表の久保選手が所属する、レアル・ソシエダが拠点を置く街としても知られているかも知れない。
そんなサン・セバスチャンを有するバスクの名産ワインといえば、なんと言ってもチャコリだ。
微発泡、低アルコール、キリッとした酸で、飲み心地の軽やかさは世界屈指。
だが、ワイン通には、薄くてつまらないワイン、と見なされることも多かったワインでもある。
美食の頂点であるサン・サバスチャンと、安価な日常酒という印象が強いチャコリには、奇妙な文化的乖離を感じる人も居るかも知れないが、そもそもサン・セバスチャンが美食の聖地となったのは極近年のことで、それまでは(今でもだが)ピンチョスに代表される庶民食をフレッシュなチャコリと共に楽しむのが、バスクの日常だった。
かくいう私も、チャコリには長らく、ガストロノミックなワインとしての期待を強く抱いてはこなかった。
友人達と共に楽しい時を過ごす時の心強い相棒、なんて書くと、なんとも格好つけた感じに見えるが、実際のところは最高のパーティーワインだった。
だから、自分が主戦場とするガストロノミックな局面で、チャコリを使用したことはほとんど無かったのだ。
そんな印象が180度ひっくり返ったのは、チャコリ屈指の銘醸とされるTxomin Etxaniz(チョミン・エチャニス)を、たっぷりのルッコラと削ったパルミジャーノ、少量のバルサミコ酢で仕上げたシンプルなサラダと共にに、「たまたま」一緒に飲んだ時だった。
チャコリのほのかな甘みが、ルッコラの苦味と融合し、ルッコラから未知の美味しさを引き出しただけでなく、チーズの塩味とも、バルサミコ酸の酸味ともパーフェクトに調和した。
非常にシンプルな組み合わせだが、そのガストロノミー・レベルは極めて高かったのだ。
パーティーワインなどと決めつけず、私がもっとオープンマインドにチャコリを探求していたら、過去に考案した無数のペアリングの中に、チャコリは数多く登場していたことだろう。
後悔先に立たず、とは、後悔しても簡単には取り戻せないから、後悔しないように気をつけなさい、という先人からの教えである。
その言葉を今一度胸に刻んで、10数年分の後悔を取り戻すべく、今後はチャコリを深く追求していこう。
***
「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。