2023年1月8日4 分

再会 <28> ビオディナミとワインの因果関係

Hochkirch, Pinot Noir “Maximus” 2019. ¥6,800

Cause and Effect。小難しい日本語に訳すと、「因果関係」とでもなるだろうか。

ワインという「結果」と、そこに至るまでのプロセスである「要因」の間には、確かに因果関係が認められるケースが多い。ブルゴーニュに、バローロに、リオハに、ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンに宿る「あの味」の後ろ側には、Cause and Effectが、まるで黄金の方程式が如く存在しているのだ。

しかし、この因果関係は、往々にして巨大な誤解の温床となっている。

その理由はただ一つ。本来、要因と結果の関係性は極めて複雑であるにも関わらず、我々の多くが、自らに都合の良い(理解しやすい)情報だけを切り取って、パズルのピースが全然足りていなくても、必死にその限定された因果関係を正当化しようとしてしまうからだ。

有名産地のワインだから美味しい。

有名生産者のワインだから美味しい。

高価なワインだから美味しい。

などというのは、その最たる例で、要因がそもそも時代遅れの権威主義的なのも問題だが、美味しいという結果も、主観的過ぎる。

曖昧な要因と、主観的な結果の間に生じた因果関係らしきものが、「個」には当てはまったとしても、「全」に近いものとして語るには、著しく根拠に欠けることは明白だ。

このような誤解は、ワインに関連した別の部分にも生じることがある。

例えば、ビオディナミ農法だ。

DRC、ドメーヌ・ルロワ。世界の頂点とされる様な生産者がビオディナミ農法を採用していることから、この農法が高品質に直結すると考える人は非常に多い。

しかし、決して忘れてはならない。

ワインに宿る因果関係は、実に複雑であるということを。

具体的な銘柄名に関する言及は控えるが、筆者が過去2年間ほどの間にテイスティングした数多のワインの中でも、最下位争いをしているようなワインの一つは、日本でビオディナミ農法にチャレンジしたというワインだ。

適地適品種、造り手の経験値といった重要な要因を全て吹っ飛ばして、どんな場所であっても極上のワインを生み出す、などといった奇跡を起こす力は、ビオディナミ農法には無い

ビオディナミ農法には、80点を99点にする力はあるかも知れないが、20点を90点台まで引き上げる様な力は無いのだ。

別の言い方をすれば、「諸条件が揃ってこそ、ビオディナミ農法は効果を発揮する」となる。(本稿では、「結果の観察」を重視して、ビオディナミの効果に対する科学的証明については、あえて横に置いておく。)

今回再会したワインは、高品質に結びつく条件が揃った上で、ビオディナミ農法がその品質をさらなる高みへと押し上げているケースの好例。

ホッホキルシュは、オーストリア・ヴィクトリア州にて、ビオディナミ農法を実践する造り手だ。

1990年に最初の植樹を行った際は慣行農法だったが、数多くの挑戦と失敗を経て、1999年にビオディナミへと辿り着いた。

『未経験に限りなく近かった我々は、ワイン産業最高の叡智と助言らしきものに頼ったが、何もかもを最悪になるという、稀有な結果に辿り着いてしまった。(ワイナリーHPより、筆者意訳)』

と自身が語る様に、ホッホキルシュは、要因と結果の関係性に対して、ストイックに向き合ってきた。

ビオディナミに転換後も、ニューワールドでは一般的な植樹方法(大型トラクターが入ることを前提とした、畝の間隔が広く、密植率が低く、フルーツゾーンが高い仕立て)に疑問をもち、彼らの葡萄畑にとって最適と考える方法を追求してきた。

設立当初7品種植えていた葡萄も、テロワールと相性の良い4品種に絞った上で、さらに2品種追植した。

土地に合った品種、土地に合った仕立て、油断のない畑仕事

その全てが揃った上で、ビオディナミ農法が葡萄をさらにたくましく育てたからこそ、(瓶詰め前のごく僅かな亜硫酸以外の)あらゆる添加物を拒絶するナチュラルな造りをしても、一切の不安定要素が生じない見事なクリーン&ナチュラルに仕上がっているのだ。

13.5%の液体は、驚異的に濃密でありながらも、全方位に放出されるエネルギーにのって、軽やかさを全く失わない。長大でカラフルな余韻は、陶酔的ですらある。

残念ながら、良年に僅かな量だけ仕込まれるワインだが、この様な極上ワインがもし世界にたくさんあったら、もう我々のワインライフに、「高品質とは限らないがほぼ無条件で非常に高価」な一部の有名ワインなど、必要なくなるだろう。

要因と結果は、一つの点同士が結びついただけでは、高品質の目安とは簡単にはならない。

いくつもの点が繋がって線となり、いくつもの線が折り重なって太く力強い糸となってこそ、優れた結果が生まれるのだ。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。