2022年12月25日4 分
温故知新。
筆者が最も好きな熟語だ。
故きを温め、新しきを知る。
それは単純な過去回帰ではなく、過去のイデオロギーや成果を反芻し、深くリスペクトした上で、その先へと進みながら新たな道理を探求していくことだ。
つまり過去回帰はただの「レプリカ」だが、温故知新は「リメイク」であるということ。
人が現代人として自らの生きた証をたてるなら、当然リメイクの方が手っ取り早い。レプリカにどれだけ精魂込めても、膨大な過去作の大海に、いとも簡単に深く沈みこんでしまうからだ。
もちろん、レプリカそのものを批判している訳ではない。
ただ、レプリカがオリジナルよりも高く評価されることなど、ほとんど無いというだけのことだ。
この真理は、ワインの世界にも当てはまる。
そして、ワインの歴史を振り返ってみると、その時々の「最先端」は、ほぼ例外なく、何かしらの「リメイク」である、という事実が浮かび上がってくる。
「ほぼ」例外なく、と書いたのは、1980年代後半から2000年代前半にかけて、世界のワイン産業を席巻した「パーカリゼーション」という現象が、かなり特殊な例だったからだ。
ただしこれも、厳密に言えば、パーカリゼーション以前の時代から研究されていたことの強化発展系であることから、完全な例外パターン(=純然たるクリエイト)という訳でもない。
では、現代の温故知新=最先端とは、どういったものなのであろうか。
現代が温めている「故」とは、一体何なのだろうか。
答えは実にシンプル。
それは、パーカリゼーション以前、さらに言えば、第二次世界大戦後の「緑の革命」以前のワイン造りだ。
当たり前のように合成化学農薬を使わず、自然界に元から備わっている調和から知を得て、自然との終わりなき対話を繰り返しながら、葡萄を育てる。
そして、無駄な添加物は使わずに、ヴィンテージの恵みをワインとして正直に表現する。
パーカリゼーションがもたらした「平均化」は、ワイン産業を大いに発展させたのも事実だが、それと同時に失ったものも、また大きかった。
失われた時代の知を取り戻しつつ、気候変動も含めた「今」へと対応させた上で、現代的なファインチューンとアップデートを施す。
それこそが、今この瞬間の最先端なのだ。
Le P’tit Paysan, Old Vine Cabernet Sauvignon San Benito
2022年最後の「再会・出会い」シリーズを飾るのに、このワインほど相応しいものは無いと、私は考える。
猛烈なスピードで成長してきたI Brand & Familyの中でも、このLe P’tit Paysanというプロジェクトは最大限の注目を浴びるに値する。
Old Vine Cabernet Sauvignonは、1970’sのカベルネ・ソーヴィニヨンから着想を得て生まれたワインである。
カリフォルニア、特にナパ・ヴァレーは、強烈にパーカリゼーションの影響を受けただけでなく、ワインの価格も異常なほど高騰した。
ボルドー左岸5大シャトーを大きく上回る価格で取引されるワインの銘柄数は、両手を2往復しても全く足りないだろう。
それに、「技術が先走った」超高級ワインであれば、5万円でも10万円でも50万円でも、正直言ってそれほど大差無い。もしそこに真っ当な違いがあるとすれば、より高価なブランド品を飲む(それはそれで、大いに結構なのだが)ことで満たされる、自尊心と自己顕示欲くらいのものだ。
しかし、そういうワインがあるからこそ、そうではないワインにもまた、光が当たる。
そう、Le P’tit Paysanのこのワインの素晴らしさは、技術ではなく、何よりも葡萄畑に宿っている。
彼らは、70年代のカベルネ・ソーヴィニヨンをモデルとするために、それが可能な葡萄畑を探し出した。気候変動の影響が激化した今、もうあのスタイルのワインをナパ・ヴァレーの葡萄(葡萄畑そのものの仕立ても含めて)から造ることは叶わない。
だからこそ、超マイナーなサン・ベニートAVAの冷涼気候、古いタイプの台木、樹齢45年を超える木々、マッセル・セレクション、そしてオーガニックという要素が詰まった葡萄が、重大な意味をもつに至る。
アルコール濃度13.1%というミディアムボディの中に、しっかりと凝縮した果実味が込められ、緻密な酸とミネラルが強固な骨格を成しつつ、カベルネの「らしさ」でもあるピラジンは、より現代的な「スパイス感」としてファインチューンされている。
2022年の、SommeTimesベスト・パフォーマンス部門、赤ワインはこの一本で間違いない。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。