2022年12月4日3 分

再会 <26> Terroir in California

The Ojai Vineyard, Riesling “Kick on Ranch” 2017. ¥4,200

カリフォルニア・ワインと聞くと、どうも派手で煌びやかな印象をもっている人が多いだろう。

多くのワインが「ブランド化」され、ヨーロッパの銘醸ワインを凌ぐ超価格で取引されるワインも少なくない。筆者個人としては、そのような「技術の粋」にはすっかり興味を失って久しいが、より大きなカリフォルニアとして括れば、長大なFavorite Listが出来上がる程度には、強く心惹かれ続けている産地だ。

ちなみに、カリフォルニア州の面積は約424,000㎢。フランス約643,800㎢)よりは小さいが、ドイツ約357,600㎢)や日本約377,900㎢)よりも大きい。

こんなに広ければ、多種多様なテロワールがあって至極当然。そして、テロワールが違えば好適品種もまた異なるというのは、ワイン界の不文律だ。

この圧倒的な広さ、多民族国家であるアメリカ合衆国、そしてワイン産地としての豊かな歴史の全てが合わさった結果、カリフォルニア州はワインにおける「世界の縮図」とでも呼ぶべき銘醸地と成った。

確かにナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンは素晴らしいし、ソノマやメンドシーノのブルゴーニュ品種も最高だ。でも、「それだけじゃない」ところが、カリフォルニアの何より素晴らしいところなのだ。

さて、今回再会したワインは、色んな意味で一般的なカリフォルニア・ワインのイメージとは遠いワイン。

造り手の名はOjai(オーハイ)。本拠地のサンタ・バーバラ・カウンティ内に点在する複数の葡萄畑から、なんとも地味で分かりにくい、いや、なんとも素朴で滋味深い、いや、葡萄畑と葡萄が織りなすテロワールが、驚異的な透明度で紡ぎ出されたかのようなワインを手がけている。

創設時から「限界まで何も足さず何も引かないナチュラルなワイン造り」のポリシーを貫いてきたオーハイは、最新技術を核としたナパ・ヴァレーの進化とは対極にあり続けてきた。

伝統を基準に考えれば、これ以上なく「普通」の在り方なのだが、カリフォルニアではそれが「異端の印」となったのだ。

そして、なんともこじれた話だが、カリフォルニア・ワインが再びテロワール・ワインへと戻り始めた頃から、ようやくオーハイのワインが評価され始めたのは、皮肉なこととしか言いようがない。

そんなオーハイのリースリングが、実に素晴らしい。

葡萄畑は、太平洋からの冷風が集中する狭い渓谷にあり、夏場でも涼しいテロワールとなっている。収穫はなんと10月まで平然と引っ張れるそうで、ゆっくりと着実に熟したフェノールが、明確なテロワールの個性としてマーキングされている。一方で、豊かな日照を確かに感じる、淡いパイナップル風味もある。

ドイツっぽくも、オーストリアっぽくも、アルザスっぽくもない、サンタ・バーバラらしいリースリングの傑作だ。

しかし、カリフォルニアのリースリング、などというワインがそこまで人気ということも、(少なくとも日本では)無いのだろう。日本国内での現行リリースは2017年。

ヴィンテージから5年。優れたリースリングが花開き始める、絶好の熟成具合だ。

最後に一言、少々スパイスの強いフレーズを。

私は日本市場がオーハイの素晴らしさを理解できないようであれば、時に虫唾が走るような権威主義的市場から脱却できず、世界のトレンドからも遅れ続けると心から思っている。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。