2022年11月13日3 分
タイミングが悪い、というのは結構どうしようもないことがある。
ギリシャの名高き銘醸、キリ=ヤーニへの訪問もそうだった。
本来ならかなり楽しみな訪問となるところだが、どうも気乗りしなかった。
ナウサで日夜繰り返される大量の(余るくらい料理を頼むのがギリシャ流)飲食に流石の私も胃が荒れ始めていたし、どこかほのぼのとした田舎風ワインに多く触れてきた後だというのもあった。
それに、ギリシャの重要な祝日の真っ最中というタイミングもあって、ワインメーカーを含む「ちゃんと話せる相手」もワイナリーには不在だった。
なんともタイミングが悪い。
テイスティングでは様々なキリ=ヤーニのワインを味わうことができたが、高い技術で綺麗に研磨されたようなクスィノマヴロが、どうにも心に響かなかった。高品質な平均化の代償は、そこにしかない個性だったのかも知れない。
これも、タイミングの悪さだろう。
ナウサで最初に訪れたワイナリーがキリ=ヤーニだったなら、違う印象をもった可能性は十分にある。
しかし、テイスティングを進めていく中で、強い衝撃を受けたクスィノマヴロがあった。
しかも、ナウサ産ではなく、お隣のアミンデオンの葡萄だ。
PDOアミンデオンは、ナウサの北西部、より標高が高く冷涼なエリアにある産地で、ナウサと同様にクスィノマヴロ100%が義務付けられているが、赤に加えて、ロゼとロゼスパークリングも生産できる。
キリ=ヤーニが手がける、日本でも非常に人気が高いロゼスパークリングは、このアミンデオン産だ。
もちろんそのスパークリングも良かったのだが、ナウサで体験した数々の素晴らしいワインの印象が少し霞んでしまうほど、アミンデオンのロゼと赤が最高だったのだ。
ロゼに関しては国内輸入が無いようなので詳しい言及は避けるが、一言だけ「私が知る限り、全ギリシャで最上レベルのロゼ」とだけ書き残しておこう。
さて、本題は赤。
先述した通り、ナウサよりもかなり冷涼なアミンデオンでは、クスィノマヴロに異なる個性が宿る。
ピノ・ノワール的ではあるのだが、もっとブライトで、重心が高く、軽やかだ。
そして、キリ=ヤーニのKali Rizaは、アミンデオンの特性を緻密に表現しながら(ワインメーカーは、アミンデオンにかなり強い思い入れがあるのではと邪推してしまうほど。)、同社のナウサに比べるとかなりライトなタッチの洗練を加えた傑作。
ナウサで体験したどのクスィノマヴロと並べても、トップレベルに余裕で入る品質だが、日本国内価格はなんと3,000円。同品質のナウサと比べると半額以下だ。
これは流石に反則である。
しかし、これもまた、タイミングの悪さなのだ。
ナウサの名が高まり過ぎたが故に、アミンデオンに射した影は深く大きいものとなってしまった。
だからこそ、我々ワインファンは、渾身のマニアックソウルを発揮しようではないか。
アミンデオンのクスィノマヴロも最高で、しかもコストパフォーマンスが異常に凄い!と。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。