2022年11月6日3 分
スペインにおいて、進化のタイミングはクラスター的に発生することが多い。
近代を振り返ってみても、「四人組」を中核としたプリオラート、ペスケラを中心としたリベラ・デル・デュエロ、ラウル・ペレスを中心としたガリシアなど、各地域がまるで順番待ちでもしているかのように異なるタイミングで、突然現れたスター生産者に引っ張られながら進化を果たしてきた。
しかし今スペインで起こっている進化は、これまでの例とは少し異なっている。
一つの生産者がムーヴメントを引っ張っている点では相変わらずだが、今回のスーパースターは、なんと三箇所の全く異なる地域で、同時多発的に進化を促しているのだ。
造り手の名は「エンヴィナーテ」。
2005年のデビューから瞬く間に、スペインワインのスタイルを大幅にアップデートした、新たな「四人組」だ。
大学の同窓であったロベルト・サンタナ、アルフォンソ・トレンテ、ラウラ・ラモス、ホセ・マルティネスは、ガリシア地方のリベイラ・サクラ、アルマンサ地方のフミーリャ、そしてカナリア諸島という3つの遠く離れた産地を飛び回りながら、(一応、担当地域はあるそうだが)四人の叡智を常に合わせながらワイン造りに挑んできた。
重要なのは、この四人が互いへの強いリスペクトで結ばれた同志達であり、イコールの関係にあるという点だ。だから、3つの生産地でヴィンテージを重ねるたびに、常軌を逸したスピード感で成長することができたのだろう。
単純な話、その経験値は、3(の産地)× 4(の造り手)が毎年重なるため、通常の12倍とも言える。
彼らが造るワインもまた新鮮で、エンヴィナーテの登場まではテロワールのポテンシャルを限界まで現代的ワインメイキングの力を借りてプッシュしたようなワインが主流だったスペインにあって、その真逆とも言えるスタイルを突き詰めてきた。
豊かな才能と、大量の経験値をもって、極限まで控えめな醸造を心がける。
介入しないと言っても、ワインがダーティーになることは決してない。まさに、クリーン&ナチュラルの、最高のお手本である。
3産地のワインはどれも極上なのだが、衝撃度が格段に高いのはカナリア諸島のワインだ。
火山がそのまま島になったような環境であるカナリア諸島で育った葡萄には、非常に強く「火山」そして「海」のテロワールが宿る。
その個性があまりに強烈で特殊ゆえに、カナリア諸島のワインは理解の難しい味わいになりがちだったとも言えるだろう。
しかし、エンヴィナーテは違う。
カナリア諸島の「らしさ」を一切損なわずに、現代的でハイセンスな「グラン・ヴィーニャ」に仕立てることができる、唯一無二の造り手なのだ。
今回再会したPalo Blancoは、樹齢が少なくとも110年を超えるリスタン・ブランコの畑から。
どちらかというとフラットであるリスタン・ブランコの特性も相まって、火山と海のテロワールが満ち満ちている。
スモーキーでソルティーなアロマとフラワリーなタッチが交わり、強烈な酸と濃密な果実味が高次元で融合する。信じられないほどインパクトの強いワインだが、アルコール濃度は11.5%しかない。
自然と、歴史と、人の叡智が生み出した、奇跡としか言いようの無いワインだ。
世界各国が、なぜこの四人組のワインを巡って熾烈な争奪戦を繰り広げるのか。
その答えは全て、分かり易すぎる形で、彼らのワインに宿っている。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。