2022年9月25日4 分

再会 <21> 熟成の果てに待ち受けるもの

最終更新: 2022年10月2日

R. López de Heredia, Viña Cubillo Crianza 3er Año, Late 1960s~70s.

ワインの熟成というのは非常に奥が深い。

そしてその熟成に付随した「飲み頃」という考え方もまた、実に奥が深い。

筆者も頻繁にこの熟成と飲み頃に関する質問を受けるが、シンプルかつ完璧な答えが存在していないため、毎度のようになんとも返答に困ってしまうのだ。

いや、よく考えてみれば、一つだけ完璧な答えがあった。

自分の好きにすれば良い」だ。

まぁ、それは半分くらい冗談なのだが、答えをなかなか明確には示せない理由は確かにある。

その理由とはズバリ、主観性の問題だ。

どの熟成タイミングのワインを「美味しい」とか「素晴らしい」と感じるかはまさに千差万別で、あまりにも個人差が大きい。

例えば私自身は、はっきりとしたフルーツの味わいと、程よい熟成感が相乗効果を生み出しているようなタイミングのワインが好きだが、同じワインを飲んで「若すぎる」と思う人も、「遅すぎる」と思う人も必ずいる。

一方で、それぞれの熟成タイミングに、ある程度一貫した特徴が見られるのも確かだ。

(あまりにも例外が多い部分なので、あくまでも参考程度に)

最も若い段階(ヴィンテージから1~3年の範囲でリリース)のワインは、フルーツの味わいや、場合によっては樽の味わいなどが前面に出ている。テロワールらしきものも確実に含まれているが、少し分かりにくいこともある。ワインは開いていたり、閉じていたり、なんとも言えない。

次の段階(ヴィンテージから4~5年の範囲でリリース、もしくはリリース後2~3年ほど経過)は、フルーツはまだまだ元気だが、樽の影響などが少しだけ落ち着き始め、より一体感が出てくることが多い。最初期の段階に比べるとテロワールをより感じやすいと思う人も多いかも知れない。ワインは開いていたり、閉じていたり、なんとも言えない。

3番目の段階(リリースから4~10年程度経過)では、フルーツがやや落ち始めるワインが出始める。フルーツのパワーを、熟成による風味が上回り始める段階とも言えるが、この段階ではまだまだフルーツが元気いっぱいなワインも多々存在するため、なんとも言えない部分が多く残る。筆者はこの3段階目の中盤あたりにいるワインが好きなのだが、なかなかピンポイントで狙うのは難しい。ワインは開いていたり、閉じていたり、なんとも言えない。

4番目の段階(リリースから10~20年程度経過)では、ほとんどのケースで明らかにフルーツが失速し、熟成風味が勢力範囲を広げている。熟成風味が苦手な人は、明確に「寝かせすぎた」と感じるタイミングでもあり、これまでの段階で最も好き嫌いが分かれがちとも言える。一部、古典的な造りや、特殊なヴィンテージの場合、4段階目でも非常に若々しい状態を保っていることがあるが、どちらかというと少数派だ。ワインは開いていたり、閉じていたり、なんとも言えない。

5番目の段階(リリースから20~40年程度経過)、特にその後期に入ると、興味深い現象が起こり始める。若い段階ではしっかりと判別がついていたはずのテロワールや葡萄品種の特徴が、消え始めるのだ。筆者自身、この段階のブルゴーニュ、ボルドー、バローロなどをブラインドテイスティングして、大外しした経験が何度もある。地に落ちた葉が枯れ、土に還ろうとするタイミングになると、どの樹の葉だったか見分けがつかなくなる。それと似たような現象と言える。もちろん、例外的にこの段階で信じられないほど素晴らしいワインに遭遇することはあるが、そんな幸運はなかなか訪れないものだ。ワインは開いていたり、閉じていたり、なんとも言えない。

最後の段階(リリースから40年以上経過)になると、枯れ葉が完全に土と一体化するように、もはや正体不明となることが多い。文字通り、正体不明だ。この段階になると、ブルゴーニュか、ボルドーかなんて、もはやどうでも良くなってきたりする。しかし、ワインとしては(状態さえ良ければ)非常に美味しいことが多いのも事実で、全く無名だが40年以上熟成したようなワインに、途轍もない感動を覚えたことは少なからずある。この段階でもワインは開いていたり、閉じていたりする。

さて、今回再開したワインは、この「最後の段階」にあたるワインだった。

ロペス・デ・ヘレディア。スペイン最高の銘醸地リオハを代表する偉大な造り手だ。

ヘレディアにとってはスタンダードに近いラインにあたるヴィーニャ・クビーリョは、現在では単一ヴィンテージから造られるワインだが、昔は違った。

そう、複数ヴィンテージ(おそらく3ヴィンテージ)をブレンドしたNVとしてリリースされていた時代があったのだ。

このようなワインが造られていたのは1960年代後半から1980年代初頭までと思われるが、調べてみても正確な情報が出てこない。

今回のワインも、ラベルが汚れすぎていてリリース年の判別もできなかったが、どちらにしても、2022年に飲んだこのワインが熟成の最終段階に入っていたのは間違いなかった。

腐葉土、キノコ、干し肉、シガー、なめし革のアロマが宿った、しなやかで繊細な味わい。完全に枯れてはいたが、なんとも言えない哀愁に満ちた、記憶に残る一本だった。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。