2022年9月4日3 分

出会い <19> 意味不明というスパイス

最終更新: 2022年10月2日

Mélange, Rougir 2021. ¥5,500

長年数多くのワインと接していると、ある程度の予測が付くようになってしまう。

もちろん、正確無比な予測とまではいかないが、まぁどうして、なかなかいい線まで行けたりするものだ。

場所、葡萄、ヴィンテージ、醸造スタイル。

情報がこれだけあれば、大体は十分と言える範囲までは予測できる。

それなりに便利な技能と言えなくもないが、普段からワインをそういう目線から見るのは推奨しない。

方程式に何もかも当てはめてしまうと、どうにも、ワインが無機質なものに見えてきてしまうからだ。

そして、そのような感覚を覚えた時は、積極的に「理の外」にあるワインを飲むことをお勧めする。

なぜそのような香りや味わいになっているのか。

理由が全く分からないワインは、(好き嫌いは分かれるにしても)最高のエンターテイメントになる。

今回出会ったワインもまた、そんな「意味不明」なワインだ。

ワイナリーの名はメランジュ

フランス語で「混ぜる」という意味の言葉で、その語源は日本でも馴染み深い「メレンゲ」だ。

造り手の名はハリソン・イートン。なんと1996年生まれという若者だ。

ワイナリー一家に生まれたハリソンは、物心着いた頃には葡萄畑と醸造所で(遊びながら)日々を過ごし、高校を卒業すると正式に畑仕事を始めるようになった。

現代の若者らしいサスティナビリティ意識の高さや、柔軟な発想をもつハリソンは、実家のワイナリーで仕事をする傍ら、自らのレーベルも立ち上げた。

2018年ヴィンテージが初ヴィンテージとなったが、その後順調に生産量を少しずつ増やしながら、醸造家としてのアイデンティティを磨き上げてきた。

そんな彼が造る(便宜上は)ロゼワインである「Rougir」は、遊び心が弾け過ぎて、意味不明なワインとなった、痛快な一本。

葡萄品種は、グリューナー=ヴェルトリーナー43%、ソーヴィニヨン・ブラン24%、ピノ・ノワール15%、ゲヴュルツトラミネール13%、ピノ・グリ5%。

意味不明な品種構成である以上に、葡萄品種構成の情報自体が、意味をなしていないという見事なカオス感。

葡萄はネルソンとマールボロから調達し、「一応」それぞれ別に醸造して、後でごちゃ混ぜにしたそうだ。

色調はダークピンク。

香りはイチゴ、ラズベリーに、謎のグリーンタバスコ。

味わいは、ベリー感とグリーンスパイスのタッチが乱雑に絡み合い、余韻はメンソール的に抜けていく。

ややとろりとしたテクスチャーが心地良い。

かなり未体験ゾーンな味わいだが、妙に引き込まれる。

最初に香りを嗅いだ時も、口に含んだ時も顔をしかめてしまうのだが、不思議と杯が進んでいく。

私が学んだきたあらゆる常識も、磨き上げてきた方程式も、一切が通用しない。

なんと楽しいワインだろうか。なんと刺激的なワインだろうか。なんと目が覚めるようなワインだろうか。

これだから、ワイン道は一度歩み始めたらなかなか引き返せない。

進めば進むほど、驚きと発見が待ち構えているのだから。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。