2022年8月7日3 分

再会 <18> 塗り替えられる「ティピシテ」

Christophe Pacalet, Côte de Brouilly. 2020 ¥4,800

プライヴェートではほぼナチュラルワインオンリーの筆者は、同類の例に漏れず、ガメイが大好きだ。

華やかなベリー香に、ほのかなワイルド感が加わる蠱惑的なアロマ。

ピュアな果実味と踊るような酸。

軽やかで、伸びやかで、自由なワイン。

そんなナチュラルガメイの聖地といえば、当然ボジョレーである。

マルセル・ラピエールをはじめとして、ナチュラルワインを代表するような偉大な造り手たちがひしめくこの地のワインを飲んで人生が変わった、と言う人にも数えきれないほど出会ってきた。

そんな聖地にも今、温暖化と言う荒波が押し寄せている。

1970年代頃までのボジョレーは、アルコール濃度11%を超えることは滅多にないワインだった。

やがて、徐々にインターナショナル化していったボジョレーは、補糖によって12.5%程度までかさ増しすることが一般的となった。

12.5%は、それでも十分気軽にグビグビ飲める、というアルコール濃度であり、ガメイ特有の「軽さ」も相まって、ボジョレー本来の魅力が補糖によって大きく失われていたとは言い難いだろう。

ところが近年、補糖という選択肢が頭によぎることすらないほど、ボジョレーの気候は変わった。

それでも、収穫時期を早めたりしながら、多くの造り手たちは「軽さ」を保とうとしてきたが、残念なことに、無理な早摘みとナチュラルなワイン造りは、非常に相性が悪かった。欠陥的特徴が生じる要素が、劇的に増えることになってしまったのだ。

しばしの不安定な時期を経て、聡明なボジョレーの造り手たちは、適熟のタイミングを再定義するようになっていった。

今回再会を果たしたクリストフ・パカレは、以前のボジョレー特集でも大きく取り上げたように、ナチュラル・ボジョレー第二世代のリーダー格として、この産地を力強く引っ張ってきた偉大な造り手だ。

科学的検証結果に基づいて、限界まで人為的介入を排するクリストフは、「余計なこと」をするタイプの造り手では決してない。

そんなクリストフから届いたCôte de Brouilly 2020は、なんとアルコール濃度15.5%のワインだった。

クリュ・ボジョレーの中でも、日照に恵まれた丘に位置するCôte de Brouillyは、確かに他のクリュに比べてもアルコール濃度がやや高い傾向がある。

しかし、それにしても、驚きの15.5%である。

造り手が他ならぬクリストフなのだから、この結果は意図したものではなく、自然がもたらした必然と考えるべきだろう。

実際にワインを味わってみると、ステレオタイプなボジョレーらしさは、どこにも見当たらない

むしろ、ニューワールドにある暑い産地のガメイと考えた方が、遥かにイメージは近い。

これだけなら、いつもの筆者であれば、「大失敗のヴィンテージ」と断じてもおかしくないのだが、このワインには実に悩まされたのだ。

そう、ボジョレーのティピシテ(典型的特徴)は全く感じられないのだが、ワインとしては非常に美味であり、極めて高い完成度に至っているのだ。

このように、ティピシテを元にした価値判断か、一つのワインとしての品質判断かを選ばざるを得ないような局面は、今後ますます増えていくだろう。

そして、筆者も含めて、その局面に遭遇した時にどのような判断をするかによって、時代遅れになるかならないか、が決まってしまう時代がくるのではないだろうか。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。