2022年7月31日4 分
ブルゴーニュが高い。いくらなんでも高過ぎる。
ワインファンを大いに悩ませるこの問題は、実に深刻だ。
特に、新しくワインの魅力に目覚めた人たちにとって、世界最高峰のクラシックワインを体験するためのハードルがとてつもなく高くなってしまったという現実は、非常に厳しいものだ。
それなのに、先輩たちは口を揃えて「クラシックを学べ」と言う。
よほどの経済力か、稼ぎのほとんどをワインに捧げるほどの覚悟、もしくは、ごく僅かな幸運に恵まれた人しか入れない特殊な環境やグループにでも属していない限り実現不可能な「指導」など、もはやただの理不尽でしかない。
それに、ブルゴーニュにしても、ボルドーにしても、気候変動の影響で「クラシック」な味わいは、すっかり迷子になっている。
例えば2018年ヴィンテージのブルゴーニュに大枚を叩いてその味わいを体験したとしても、それはクラシックワインの体験などとは到底言えないだろう。(例外的に素晴らしいワインを造った生産者もいるが。)
先輩方の言う「クラシック」を巨大な変化が襲っているのであれば、無理をしてまで体験する必要性はあまり無いのでは、とすら思えてならないのだ。
しかし、「スタイル」としてのクラシックを体験するのは、確かに良いことだと思う。
ブルゴーニュっぽい。ボルドーっぽい。バローロっぽい。
当たり前のように出てくるその言葉が何を意味しているのかを理解するのは、さすがにスタイルだけでも体験していないと難しい。
では、どうすればそのスタイルを体験できるのか?
ありがたいことに、たくさんの道がすでにある。
その中でも今回はブルゴーニュ的、というスタイルに限定して紹介していこうと思う。
ブルゴーニュ人は昔から海外進出にも結構積極的で、例えばアメリカ・オレゴン州のドメーヌ・ドルーアンは1987年に設立されている。
他にもニューワールドを中心に、フランス国外でブルゴーニュ人がピノ・ノワールやシャルドネを手掛けるケースは、実に多い。
そして、(少々の皮肉も込めるが)彼らの造るワインは、どこで造っても「ブルゴーニュ味」になることが多い。
最近だと、北海道でブルゴーニュのスター、エティエンヌ・モンティーユがワインを造り始めたが、買い葡萄から仕込んだファーストリリースのピノ・ノワールは、見事に「ブルゴーニュ味」だった。
他国の産地なら(単純にあまり興味をもたないだけなので)それほど気にしないが、自国の、しかもピノ・ノワールのポテンシャルが期待される北海道で、ブルゴーニュ味のワインなんて造られたら、個人的には行き場の無い怒りすら覚えるものだ。
まぁそれはさておき、見方を変えれば、そういうワインが最高の教科書になるケースもある。
今回出会ったカリフォルニアのRacines Wineは、前述したエティエンヌ・モンティーユと彼のワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」でワインメーカーを務めるブライアン・シーヴ(アメリカ・インディアナ州出身のアメリカ人)、シャンパーニュの名門「ピエール・ペテルス」のロドルフ・ペテルス、そしてカリフォルニア州サンタ・バーバラでブルゴーニュ品種から素晴らしいワインを手掛ける「タイラー」のオーナーであるジャスティン・ウィレットという、仏米混合チームが新たに発足したプロジェクト。
カリフォルニア州の中でも、特に冷涼地としての注目が高い南部のサンタ・リタ・ヒルズで育ったブルゴーニュ品種から、実に見事なワインを生み出している。
今回紹介するシャルドネは非常に高品質なワインである一方で、もれなく「ブルゴーニュ味」でもあるのだが、このワインの存在意義は違うところに宿っていると思う。
そう、Racines WineのChardonnay “Sanford & Benedict Vyd.”は、ブルゴーニュのエッセンスを知り尽くしたチームが、カリフォルニアのグランクリュ相当と言って間違いない銘醸畑から造ったワインなのだ。
そしてその価格は、(現在の)コート・ド・ボーヌの平均的な一級畑シャルドネよりも、ずっと安い。
5万円を優に超える大金をブルゴーニュのグラン・クリュに払って、迷子ぎみの「クラシック」を体験するよりも、三分の一以下の出費で、グランクリュ相当の味わいを体験した方が、個人的には良いと思う。
スタイルを知ることに重きを置くのであれば、これ以上に優秀なワインもそう多くはない。
ワインにとって、テロワールの表現というのは、変えの効かない絶対的な価値ではあるが、そのテロワールにもまた、「人」が大きく関わっているのだ。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。