2022年7月23日3 分

再会 <17> 「らしさ」とは

農楽蔵, Nora Rouge 2017

日本でワインの仕事をするなら、日本ワインのことを無視するわけにはいかない。

時代は、インターナショナル&ボーダーレス。海外のワインプロフェッショナルやワインファンから、日本ワインのことを訊ねられるのはもはや日常茶飯事だ。

日本酒(清酒)、焼酎、お茶など、これまでは「日本色」の強い飲料に関して聞かれることの方が多かったが、近年は日本ワインへの海外からの関心も確実に高まっている

「だから」、というとなんとも調子の良い話に聞こえると思うが、もちろん、自発的な興味は十分にもって、日本ワインとなるべく頻繁に接してきたつもりだ。

過去10年ちょっとの間に、様々な側面で、日本ワインの品質は確かに向上してきた

だが、正直なところ、それでもまだ、大多数の日本ワインは、私にとっては「ものたりない」。

そう感じる理由もわかっている。

インターナショナルスタイル(*1)というカテゴリーのワインが、すでに旧時代の遺物となりつつあるからだ。

*1:濃縮した色、味わいで、樽もしっかりと効かせたスタイル

『ヨーロッパ伝統国や、ニューワールド先進国のピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンと比べても、日本で造られた同品種のワインが並び立てるような品質になっている。』

そのような価値観や評価は、もはや私が興味と関心を抱くようなものではない。

インターナショナル味のシャルドネにも、メルローにも、正直とっくにお腹いっぱいだ。

そんなワインは、もう十分すぎるくらい、市場に溢れている。

まぁ、あくまでも個人的な興味と関心の問題なので、世界の名ワインと戦おうとしている日本ワインに対して、批判的な思いを特に抱いているわけではない。

いつか、本当に世界最高峰と並び立てるような日本ワインが登場すれば、それはそれで夢のある話だとも思っている。

さて、私の日本ワインとの付き合い方は確かに少し特殊なのかも知れないが、輝くような魅力に満ちていると心から思う日本ワインも、けっこうあったりする。

そして、そう感じる理由もまた、わかっている。

私が魅力を感じる日本ワインは、一切の例外なく、テロワールと葡萄品種のもたらす特徴を、「日本、そしてその造り手らしく」活かして、個性豊かなワインへと転化させたものだ。

海外にいくらでもあるような高品質ワインと、日本でしか造れないワイン。

私は、国際基準の品質よりも、後者の価値に対して遥かに重きを置いている。

そして、そんな「私が気になる」ワインを手がける造り手たちの中でも、北海道の農楽蔵(のらくら)は、「レストランやバーで見かけたら必ずオーダーする」ワインの筆頭格。

要するに、私は農楽蔵の大ファンなのだ。

今回、幸運な再会を果たせたのは、「農楽蔵の個性を追求する。」というコンセプトで造られるノラ・シリーズの赤。ヴィンテージは2017年と、いい感じの熟成がかかっているボトルだった。

ノラ・ルージュ 2017のセパージュは余市産ピノ・ノワールが60%、乙部町産メルローが40%。野生酵母で発酵し、亜硫酸は最初から最後まで無添加。

手法は極めてナチュラルで、ワインは極めてピュア。絶妙に軽やかな飲み心地がたまらない。

アルコール濃度11%なのに、未熟な葡萄の感じは全くない。

北海道(一括りにするには、あまりにも広いが)のテロワールが、確かに詰め込まれている上に、欠陥的特徴を生じさせないための細かいケアもしっかりと効いている。

北海道らしく、農楽蔵らしく、そして実に美味。

あまりに人気が高く、出会える機会が非常に限られているが、農楽蔵のようなワインがもっと日本に増えれば、私は海外のワインプロフェッショナルや、ワインファンに対して、もっと自信をもって、「日本ワイン最高だよ!」と言えるだろう。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。