2022年6月5日4 分

出会い <13> ワインファンのロマン

SRC, Etna Rosso “Alberello” 2019 ¥9,400

近年爆発的な人気の高まりを見せ、今ではイタリアの銘醸地として、真っ先に名前が挙がっても不思議では無いほどの地位を得たシチリア島・エトナ火山

『火山の山肌で葡萄を育て、火山のテロワールが宿る。』

なんていうパワーワードも素敵だが、それだけで人気が出るほど世界のワイン市場は甘くない

そう、エトナの人気が高まった理由は、その圧倒的な個性と品質にあるのだ。

イタリアのワイン史にその名を残す名醸造家サルヴォ・フォティによる一連のワイン群や、フランク・コーネリッセンのようなカルト的人気を誇る生産者など、エトナを彩る造り手たちの魅力も申し分ない。

成功すべくして成功した。エトナとは、そういう産地だと思う。

そして、エトナの底知れない可能性に心を奪われ、この地に移住してきた新たな造り手たちも多い。

今回の出会いは、そんなエトナのニュージェネレーション組と。

SRCは、2013年にわずか0.5haの畑で創業という、若く小さなワイナリー。特徴的なワイナリー名は、愛娘(Sandra)、本人(Rosario or Rori)、そして奥様(Cinzia)からそれぞれ頭文字を取り、イタリア語でエッセンスを意味する言葉と掛け合わせて、esSeRCi(エッセルチ)と名付けられた。

現在では8haにまで拡大した葡萄畑は、創業当初からビオロジックとビオディナミ農法で管理されてきた。2016年には醸造所を新設し、セメントタンクや大樽といった伝統的な設備を導入した。Rori自身はどちらかというと「畑の人」なようで、醸造に関してはコンサルタントの協力を得ている。設立当初は前述したフランク・コーネリッセンの指導を受け、現在の醸造コンサルタントはフランチェスコ・ヴェルジオ。よほどのイタリアワインファンでなければ聞き覚えの無い名前だとは思うが、フランチェスコはピエモンテ州最高峰の歴史的銘醸ブルーノ・ジャコーザで醸造家としてワイン造りを担っていた若き天才醸造家だ。

標高600m~1,000mの間に点在する畑には、樹齢が非常に高い葡萄樹もまだまだ現役を貫いており、SRCの古典的醸造法と相まって、奥深く緻密で優雅なワインの源となっている。

そして今回出会ったワインは、SRCの中でも一際特別なワインだ。

Etna Rosso(エトナ・ロッソ)というワイン名と共に刻まれた「Alberello」という言葉は、少々難しい専門用語だが、たった一言でこのワインの特殊性を説明している

アルベレッロは株仕立ての一種で、ワイヤーで誘引せずに、地表にかなり近い位置で樹形を作る仕立て方。中腰になって屈まないと作業ができず、葡萄樹を中心に全方向から作業をする必要もあるため、とにかく作業効率が悪く、機械も介入できない。さらに自然と収量が落ちるため、収益性も悪い

しかし、これらの欠点を補って余りあるほど品質面での恩恵が大きい、と考える識者は決して少なくない。筆者自身も、この考え方に同意している。

さらに、SRCのAlberelloを生み出す畑には、樹齢が100年近くに及ぶ樹が残っている。これはつまり、プレフィロキセラ(19世紀後半にヨーロッパの葡萄畑を壊滅させた虫害)の葡萄であり、その対策としてのアメリカ系葡萄との接ぎ木を行っていない、「自根」の樹となる。

「自根」の意義についても、大きく意見が分かれているが、筆者は自根に関しても「優劣とも言える違いを生む」と考えている。

まぁ、ワイン通ならではの、ロマン要素的な部分は大きいが、こういうちょっとした違いに喜びを見出すのが、ワイン趣味というものなのだ。

ということで、あえてワインマニア感を全開にして、感想を書いてみることにする。

SRCのアルベレッロは、株仕立て、高樹齢、自根という要素が全て合わさったからとした考えられないような、全方位へと解放されたアロマ、異次元の伸びやかな果実味と構造の豊かさがあり、大地から空へと一直線に向かうような垂直性がたまらない大傑作ワインだ。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。