2022年5月29日3 分
長年のブルゴーニュファンであれば、アリゴテという葡萄のことをご存じの方も多いだろう。
ブルゴーニュで栽培されるシャルドネ以外の葡萄品種としては、最も良く知られているアリゴテだが、その評価は極めて低かったと言える。
もちろん、ドメーヌ・ドーヴネ(不世出の大天才、マダム・ビーズ・ルロワが率いるドメーヌ)のアリゴテのように、突然変異的に異常な品質に到達したワインはあったものの、アリゴテと言えば「安いけど、薄くて酸っぱくて微妙」というのが定評だった。
DRC(世界で最も高価なワイン群の一つを手がける、ブルゴーニュのトップ・ドメーヌ)の所有者も、(プライベートワイナリーのドメーヌ・ド・ヴィレーヌとして)ブルゴーニュのマイナーエリア(ブーズロン)でアリゴテに注力してきたりもしたが、それも影響力としてはあまりにもピンポイントだった。
ドーヴネにしても、ドメーヌ・ド・ヴィレーヌにしても、造り手がとにかく有名過ぎたため、アリゴテ自体の評価を上げたというよりは、「彼らが造ったから、凄いアリゴテになった」という認識ばかりが先行してしまったのだ。
さて、そんなうだつの上がらない存在だったアリゴテが、有名クラシックカクテルである「キール」の原料という立ち位置から、ついに抜け出そうとしていることをご存知だろうか。
実は、アリゴテがダメだった理由と、アリゴテが良くなった理由は、連動している。
ダメだった理由は、「なかなか熟さなかった」のと、「造り手の気合が入ってなかった」ことにある。
そして、良くなった理由は、「熟すようになった」のと、「造り手が気合を入れ始めた」からだ。
この変化の直接的とも言える要因もあって、前者には温暖化が、そして後者にはブルゴーニュワインの全体的な高騰が大きな影響を与えている。
つまり、シャルドネやピノ・ノワールに比べると安価に販売でき、品質的にも確実に向上したアリゴテは、ブルゴーニュの生産者にとっても、ありがたい存在となったのだ。
また、アリゴテがかつてない盛り上がりを見せているのは、多数の優れた造り手たちの参入も大きい。
高品質なアリゴテの総量が爆発的に増えることによって、アリゴテそのものの評価が一変したのだ。
さて、今回の「再会」としてご紹介したい造り手の名は、Benjamin Leroux(バンジャマン・ルルー)。
バンジャマンは、今でこそ良く聞く「ミクロネゴス」や「ライジングスター」といった存在の先駆けで、葡萄畑こそ所有しないものの、非常に高品質なワインを、小規模生産かつ良心的な価格で手がけてきた造り手だ。
元々洗練されていた技術にさらなる磨きがかかり、もはや円熟の域に到達している。
彼のアリゴテも、スマートで流麗なテクスチャー、果実味と酸の絶妙なバランス感、疾走感溢れるミネラル、エレガントな余韻と、バンジャマン節が全開。
かつてのアリゴテを思えば、信じられないほど「美味い」。
2018年は、ブルゴーニュが酷暑に苦しみ、まるでニューワールドのような味わいのワインを数多く生み出してしまった非常に難しいヴィンテージだが、かつて「熟しにくかった」アリゴテにとっては、むしろ有難い暑さだったのか、難儀なはずの気候条件が、むしろ品質的にはプラス方向に働いている。
近年のアリゴテは、ヴィンテージを問わず安定した品質を実現できているが、今後ますます増えてくるであろう酷暑のヴィンテージこそ、アリゴテにとってグレートヴィンテージになるという流れは、おそらく定着していくと思う。
クラシックブルゴーニュを愛してやまない、一人のワインファンとしては複雑な気持ちにはなるが、「美味しい」は正義だと、妙に納得させられてしまう。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。