2022年5月22日4 分

出会い <12> 若者の感性

Indomiti, “Arga” IGT Garganega 2020 ¥3,800

私もとうに「若手」ではなくなり、すっかりと「中堅」になって久しい。むしろ、ベテランに片足を突っ込み始めたぐらいのタイミングだろうか。年を重ねるにつれ、学ぶ機会よりも教える機会の方が増えてくるのは必然なのだが、どちらかというと学ぶことの方が好きな私にとっては、少々悩ましい問題だ。インプットとアウトプットのバランスを取るのは、とても難しい。

というと、年を重ねるのが辛いように思えてしまうかも知れないが、楽しい部分もたくさんある。特に、若手の台頭にはいつも心が踊らされるのだ。

ワインを扱う業種(ソムリエやショップ店員、インポーターなど)であれば、随分と前からたくさんの後輩や若者たちと接してきたのだが、最近はワインを造っている人でも、私より若い人がかなり増えてきた

彼らのワインを飲むのは本当に楽しく刺激的で、もはや趣味と言えるほど、ついついのめり込んでしまう。

今回出会った造り手はまだ30歳にもなっていない、ミレニアル世代のシモーネ・アンブロジーニ。イタリア国内の様々な地方だけでなく、ブルゴーニュでも学んだ後、地元のヴェネト州でナチュラル・ワインのプロジェクトである「インドミティ」を立ち上げた。

ビオディナミ農法を部分的に取り入れたビオロジック農法で畑を管理し、不必要な機械は使わない。職人的な手作り感を大切にしたい、という彼の考えが垣間見えてくるようだ。醸造でも近代的な設備は使わず、シンプルなグラスファイバータンクで、野生酵母のみで、温度管理をせずに発酵させる。マロも自然任せと、徹底したハンズオフっぷりだが、瓶詰め前には極少量の亜硫酸で「おまじない」もかけている。

最終的なワインにネガティヴ要素が出ることを嫌う辺りは、新世代らしいバランス感だ。

今回飲んだワインは、彼がガルガーネガ100%で造るキュヴェ、「アルガ」。ヴェネト州のガルガーネガといえば、イタリアで最も有名な白ワインの一つである「ソアーヴェ」の葡萄だが、インドミティのワインは、IGT(分かりやすくいうと、かなりなんでもありの格付け)としてリリースされているし、このワインそのものの味わいも、ソアーヴェとの類似点は皆無と言っても良いだろう。

1950年代初頭ごろから、アメリカでのイタリアンワインブームに乗る形で急激に成長したソアーヴェは、元々1,700ha程度だったエリアが、4倍強にまで拡大された。1970年代に入ると、時にトスカーナ州を代表する赤ワインであるキアンティをしのぐほどの売上を達成したが、1990年代に入ると、一気に勢力を増したピノ・グリージオにそのポジションを奪われていってしまった。

売れ行きの悪い大量生産型ワインというのは、なんともバツが悪い。ソアーヴェはこびりついてしまったイメージを払拭するために、DOCG(一応、イタリアの最高位格付け)のカテゴリーを新設したり、一部の品質重視の造り手たちが、非公式にクリュ名を記載してきたり(2019年に、33のクリュが公式に認められた)したが、相変わらず7軒ほどの巨大な協同組合が強い支配力を維持しているし、現在ソアーヴェで最も優れたワインのほとんどは、DOCGを名乗っていなかったりもする。

要するに、改革は上手くいっていないということだ。

なんともため息の出る状況だが、引退間近の権力者たちによる醜い争いに、シモーネ・アンブロジーニのような若者が巻き込まれていないのは、幸いなことだ。

彼のワインに、ソアーヴェとの類似点は見当たらないと評したが、それもそのはず、3日間の果皮浸漬は温度管理なしで行われているため、白ワインとオレンジワインの境界線をさまようようなワインになっている。このワインの畑がソアーヴェのエリア内にあるのかは不明だが、仮に原産地呼称申請しても却下されるのがオチだろう。

オレンジやネクタリンのアロマ、わずかにトロピカルなタッチもあり、非常にカラフルな印象。質感は柔らかく、しなやかで、優しい。シリアスさはないが、それを補ってあまりあるほどのカジュアルな魅力に満ちている。

言葉ではなく、行動ではなく、ワインを通じて感じる若者の感性。

これからも、定期的に触れていきたいものだと改めて思わされた素敵なワインとの出会いだった。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。