2022年4月17日4 分

出会い <10> チリの秘宝

最終更新: 2022年7月24日

Garage wine co., VIGNO Truquilemu Vyd. 2018 ¥6,000

チリというワイン産出国の奥深さには、いつも驚かされます。南北に広くワイン産地が点在し、それぞれのエリアに適合した好適品種も既に判明しています。しかも、大手メーカー(規模的には超巨大ワイナリー)が率先して適地適品種の研究を進めてきた歴史があり、その知見がより小規模な生産者とも共有されています。

まさに、国を挙げての大探求作戦。日本のワイン産業は、チリから大いに見習うべきことがたくさんあります。

そんなチリでも最も有名かつ高価なワインが集中しているのは、中央部のコルチャグア・ヴァレーモンテス、カサ・ラポストール、クロ・アパルタと、高名なワインが目白押しです。

他の産地でも、アコンカグア・コスタのピノ・ノワール、カサブランカ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブラン、レイダ・ヴァレーのシラー、リマリ・ヴァレーのシャルドネなど、ほんの触り程度名前を挙げるだけでも、魅力的な産地と品種の組み合わせがたくさん出てきます。

しかし、チリのカリニャン、と聞いてピンとくる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?

今回は、そんなチリの秘宝とも言える、驚異的なカリニャンとの出会いのお話です。

チリ・カリニャンと私の初めての出会いは、マイポ・ヴァレーにある、チリ屈指の老舗であり、銘醸としても名高いUndurragaでやってきました。

Undurragaの醸造長は、私が個人的に話したことのあるワインメーカーの中でも、際立って特別な才能を感じたラファエル・ウレホラ氏。親しみを込めて「ラファ」と呼ばれる彼と、チリの適地適品種に関して興味深い議論を交わしながら、彼が手がけたワインをたくさん試飲しました。

リマリ・ヴァレーのピノ・ノワールや、驚異的なフラグシップワイン「アルタソール」にも度肝を抜かれましたが、最も衝撃だったのは、VIGNOと銘打たれたカリニャンのキュヴェでした。

恥ずかしながら、筆者はこの瞬間までVIGNOに関する知識がほとんどなく、その品質にただただ驚いてしまったのです。

VIGNOは、Vignadores del Carignanの略で、公式の原産地呼称ではなく、民間レべルの自主規定として、2009年に立ち上げられたコンセプトです。

その規定は、もともと非常に厳しいものだったのですが、数度の改訂の度にさらに厳格化されています。

1. 葡萄畑はマウレ・ヴァレーのマウレ・セカーノ地区に限定される。

2. 樹齢30年以上、無灌漑、株仕立てであることが必須。

3. 85%以上カリニャンを含んでいる。他の葡萄がブレンドされる場合も、1と2の条件が適用される。

4. 2年以上の熟成。

5. 手摘みによる収穫。

などなど、現在の規定は、ヨーロッパ伝統国のアペラシオン規定顔負けの厳しさです。

マウレ・ヴァレーでは、1940年代頃からカリニャンが植えられてきたそうですが、国際品種の人気に押されて、すっかり下火に。

しかし、マウレ・ヴァレーのカリニャンに「特別な何か」が宿っていることを熟知していたチリの造り手たちは、宝物のようなカリニャンを救うために、VIGNOを立ち上げました。

VIGNOには、16のワイナリーが参加しているのですが、そのラインナップもチリらしさに溢れています。コンチャ・イ・トロのようなメガワイナリーも、Undurragaのような中規模(チリの基準では)ワイナリーも、超小規模のブティック・ワイナリーも参加しているのです。

このボーダーレスなあり方には、本当に素晴らしいなと、感心させられます。

Undurragaでの出会い以降、機会があれば様々なワイナリーのVIGNOを試してきたのですが、今回ご紹介するGarage Wine Co.のワインは、おそらく最上のVIGNOでしょう。

Garage Wine Co.がVIGNO用の畑としているのは、樹齢70年を超えるカリニャンと僅かなシラーとパイスが混植された畑。

農薬を使用せず、手作業と馬で行う畑仕事。

野生酵母での発酵。

僅かな割合で全房発酵。

古樽のみで2年以上熟成。

前年度の同じワインを、発酵のスターターとして使用。

マロラクティック発酵後に極少量の亜硫酸添加。

一貫して温度管理は無し。(窓の開け閉めだけ)

と、ワイルド・ナチュラル的な手法をベースに、必要最小限の「工夫」と「親切」が施された、モダン寄りのナチュラル・ワイン。

ネガティヴ要素は一切なく、幾層にも渡るミネラルのレイヤーと、強靭な酸、しなやかなタンニンが、絶妙な軽やかさを纏ったボディに詰め込まれています。

チリ最上のカリニャンであることは間違いなし。むしろ、世界最上レベルと言っても、問題ないでしょう。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。