2022年4月3日3 分

出会い <9> ワイン界最強のリキュール

最終更新: 2022年5月14日

Bénédicte & Stéphane Tissot, Macvin du Jura Rouge “Pinot Noir”. 2018 ¥8,800

Macvin du Jura(マクヴァン・デュ・ジュラ)という飲み物をご存じの方は、どれだけいらっしゃるでしょうか?

聞いたことはある、という方も中にはいらっしゃるとは思いますが、飲んだことがある人は相当少ないと思います。

マクヴァンは、厳密にいうとワインではありません

葡萄を原料にしたリキュールです。

原産地呼称制度では、糖度170g/L以上で収穫した葡萄の果汁に、アルコール濃度52%以上のフランシュ・コンテ産(同じジュラ地方にある産地)オー・ド・ヴィ(*1)を添加して、10ヶ月以上樽熟成をする必要があると定められています。

ちなみに糖度170g/Lというのは非常に甘い状態です。

*1:葡萄原料のものだと、ワインを蒸留させたものをフィーヌ、葡萄の搾りかすを蒸留させたものをマールと呼びます。

同じ製法で作られるものの中には、より有名なシャンパーニュ地方のラタフィア・ド・シャンパーニュがありますし、ラングドック地方のフロンティニアン、コニャック地方のピノー・デ・シャラントなど、他の地域でも造られています。

ヴァン・ド・リキュールと呼ばれるこのジャンルの飲み物は、元来は余った葡萄を使って自家消費用として作られてきたもので、ワイナリーの外に出されることは滅多にありませんでした。

この流れが大きく変わるきっかけとなったのは、間違いなくシャンパーニュの有名メゾンが、ラタフィア・ド・シャンパーニュをリリースし始めたことですが、その流れに乗って、ヴァン・ド・リキュールは「商品」としてどんどん洗練されていきました。

その究極とも言える存在との出会いは、まさに衝撃。

存在は知っていたのですが、あまりの希少さ故に、なかなか巡り会えずにいました。

造り手の名は、ステファン・ティソ

現在、非常に人気が高いワイン産地となっているジュラ地方でも、筆頭格の一人と断言できるほどの実力者です。

そして、このマクヴァン、なんとピノ・ノワール100%です。

元々、マクヴァンの生産量はジュラ全体の3%も無いのですが、ピノ・ノワールのマクヴァンとなると、もはやユニコーンです。

栽培はビデオィナミ農法。糖度が最大限に高まったタイミングで手摘みをし、破砕後に10日間の醸しを行なってからマールを添加するのが、ティソ流。

マクヴァン・デュ・ジュラ・ルージュ ピノ・ノワール2018は、圧倒的なエネルギー感と、巨大なスケール、濃密極まりない果実味が押し寄せてくるのですが、それらのパワーに拮抗するかのような、強烈な酸もあるため、驚くほど軽やかな飲み口になっています。

正直、私の理解が追いつかないほどの凄さ。

ヴァン・ド・リキュールは色々と飲んできましたが、間違いなく私の人生史上最強の一本でした。

この異次元の完成度なら、おそらく私が生きている間程度の時間は、その輝きが褪せることはないでしょう。

まさに、永遠の命をもっているとすら思えるような、あまりにも偉大なリキュール。

もし、この一本と巡り合うという幸運に恵まれた方は、もったいぶらずに、ぜひ抜栓してください。辛抱して熟成させてもそんなに変化しませんし、抜栓後も非常に長持ちしますので。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。