2022年3月13日4 分
ブルゴーニュ、特にコート・ドール周辺のワインには、多くの人が「理想像」を抱いていると思います。
奥深く華やかなアロマ、ピュアな果実味と心地よいミネラル、透き通った酸、優美な余韻。
一般的なブルゴーニュの印象は、どこを切り取っても、「澄んだ美しさ」にあるような気がします。
しかも、コート・ドールのワインはとっても高価。
期待した味と違ったら、その分だけ失望も大きくなってしまうものです。
(裏切りもブルゴーニュの魅力のうち、なんていうドMなワインファンも実は多いのですが。)
そんなブルゴーニュにとって、ナチュラル・ワインは鬼門でした。
知識、技術、経験、献身に乏しい造り手によるナチュラル・ワインには、欠陥的特徴と呼ばれる、様々な不快臭や、独特のファンキーな香味が発生します。
香りや味わいとしては、それが好きなら問題はないのですが、その土地のその葡萄品種だからこそ出てくる個性を、過度な欠陥的特徴は覆い尽くしてしまいがちでもあります。
ブルゴーニュにとってはそこが問題です。
せっかくジュヴレ・シャンベルタン村の葡萄を使うなら、その個性を堪能したい。
多くのワインファンが、そう思ってしまうからです。
この点に関しては私も同意見で、わざわざ高額なワインを購入して、そのワインが「どこにでもあるようなナチュラルワイン風味」だったら、がっかりしてしまいます。
一部のブルゴーニュ産ナチュラル・ワインでは、セミ・カーボニック・マセレーションという、悪名高き(?)ボジョレー・ヌーヴォーでも有名な醸造法が採用されてきましたが、これもまた、同様の問題に行き着きます。
カーボニック味、とでも呼ぶべきでしょうか。ナチュラル・ワインの欠陥的特徴と同様に、セミ・カーボニック・マセレーションもまた、「その場所らしさ」に一定の色付けをしてしまいます。
もちろん、ナチュラルなブルゴーニュで、素晴らしいワインは少なからずありましたが、やはり価格が常にネックになっている、と私は感じています。
今回ご紹介する「出会い」のワインは、もどかしさが拭いきれないブルゴーニュのナチュラル・ワイン・シーンに、一石を投じる期待のニュースターが生み出しました。
カップルで営む極小規模のドメーヌ・ダンドリオンは、2016年設立と非常に若いドメーヌですが、その実力は折り紙付き。
ブルゴーニュのオート・コート出身のモルガーヌ・スイヨは、ブルゴーニュのドメーヌやオーストラリアで経験を積み、オーストラリア出身のクリスチャン・ノットは、ブルゴーニュの高名な銘醸であるシャンドン・ド・ブリアイユで醸造責任者を務めた歴戦の技術者です。
そんな彼らが畑を購入したのは、標高350mほどの場所にある、オート・コート・ド・ボーヌの畑。南側に開いた斜面は、キンメリジャン土壌にも似た、太古の海洋生物が眠る、粘土石灰質土壌でした。
実は、オート・コートの畑は、近年非常に人気が出ています。
理由は単純、地球温暖化です。
コート・ドールのメインエリアがとにかく暑くなった一方で、標高の高いオート・コートは、むしろ「ちょうど良く」なりました。
かつてのブルゴーニュにあった、クラシックな冷涼感を味わいたいなら、オート・コートは狙い目です。
ちょっと話がそれましたが、ドメーヌ・ダンドリオンは、亜硫酸添加をしません。畑もオーガニック転換済で、醸造も徹底したハンズオフなアプローチですが、ワインは驚くほどの透明感に溢れています。
繊細な香りと、緻密なミネラル感、冷涼感たっぷりの溌剌とした酸。
ブルゴーニュに多くの人が求めるものをしっかりと備えながら、香りにも味わいにも、不快な濁りがありません。
いわゆる、クリーン・ナチュラルの教科書みたいな作りですね。
ただ一つ残念なのは、あまりにも生産量が少ないこと。
日本市場でもすでに、熾烈な争奪戦になっています。
このワインを見つけた人は、幸運ですよ。
本当に、素晴らしいブルゴーニュとの出会いに、感謝。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。