2022年6月19日4 分

出会い <14> 温暖化時代のロゼ

Dom. du Moncaut, Rosèita 2020 ¥2,700

ロゼは夏の飲み物だ。

筋金入りのロゼ好きである筆者のような飲み手にとっては、ロゼはオールシーズンなのだが、世界的なスタンダードとしては、ロゼとは夏の季語である。

しかし、日本ではなぜか春の、桜の時期の飲み物と印象付けられてきた。

世界中を見回しても、ロゼ=春、となっているのは日本だけだ。

挙句の果てには、春のロゼプロモーションが始まると、「桜の香り〜」といった理解不能なテイスティングコメントまで氾濫する。

もし筆者が間違っていたら素直に認めるので、誰か私に飲ませて欲しいものだ。桜の香りがするロゼなるものを。

ロゼにまつわる誤解はこれだけではない。

ロゼ=甘い、というイメージもかなりの謎。

確かに、昔田舎で見た一升瓶に詰められた謎めいたロゼは甘かったし、フランス・ロワール地方のロゼ・ダンジュや、アメリカ・カリフォルニア州のホワイト・ジンファンデルのように甘いロゼは存在しているが、生産量ベースで見ると、間違いなく圧倒的なマイノリティーだ。

いつか、本格的なリサーチをしてみたいと思っている謎だ。

さらにもう一つ、ロゼシャンパーニュの誤解、がある。

「白ワインと赤ワインをブレンドしてロゼを造れるのはシャンパーニュだけ。」

「シャンパーニュ以外では、白ワインと赤ワインのブレンドによるロゼは禁止されている。」

あらゆるワイン関連書物に記載のあるフレーズだが、実に多くの誤解を生んでしまっている。

まず、このような制限が【仮に】かかったとしても、フランス国内産のワインだけだ。

原産地呼称制度の本質は、伝統の保存にある(もちろん、例外多々あり)ため、製法上の規制を国内の他産地ならまだしも、他国のワインに対してかけられるようなものでは無い

だから、イタリアのフランチャコルタでも、スペインのカヴァでも、ロゼを造るのに赤ワインと白ワインをブレンドすることがあるし、フランス国内でも一部のクレマン(シャンパーニュと同製法で造られるスパークリングワイン)では、実質的にブレンドを行なっている。当然、ニューワールドのロゼでは、ブレンドしても何の問題もない。

また、フランス国内に限らず、ヨーロッパ伝統国で、(スパークリングを除けば)白ワインと赤ワインをブレンドして作るロゼの原産地呼称がほとんど無いのは、シャンパーニュの利権を守るために禁止されているのでは決してなく、そもそもそのような伝統が無いからだ。

伝統が無いなら、原産地呼称で規定を定める理由もない。

各地の原産地呼称で定められているのは、原産地呼称を名乗るために遵守する必要がある伝統的なロゼの造り方(品種、製法)であって、白ワインと赤ワインを混ぜてはいけないとは書いていないのだ。

もちろん、ブレンドすることによって、伝統から逸脱するため原産地呼称は名乗れなくなるが、「禁止」とはかなりニュアンスが違うことがお分かりいただけるだろうか。

さて、実はヨーロッパ伝統国で黒葡萄と白葡萄の両方を使ったロゼは、昔からあった。しかし、製法としては混醸(黒葡萄と白葡萄を混ぜた状態で発酵に進む)、とセニエ(浸漬と発酵が進んでいる最中に、一部のワインをタンクから抜き出してロゼとして発酵を進める)の組み合わせが主流だったのだ。

そして今、この混醸セニエ、もしくはそれに類するロゼの製法が、脚光を浴び始めている。

その最たる理由は、温暖化だ。

多くのロゼにとって、ライトなボディ感と、フレッシュな果実味、シャープな酸は重要な要素となる。そして、黒葡萄だけでは、それらを実現することが難しくなりつつある。

だからこそ、白葡萄を使えることが、計り知れないほどの恩恵となり得るのだ。

今回出会ったDomaine du Moncautが手がける素晴らしいロゼワイン「Rosèita」は、混醸セニエに類してはいるが、革新的なアレンジが加えられている。

フランス、南西地方にワイナリーを構えるDomaine du Moncautは、シラー(ローヌやラングドックが主産地)、メルロー(ボルドー右岸が主産地)、タナ(南西地方のマディランが主産地)、プティ・マンサン(南西地方のジュランソンが主産地)という、「葡萄の交流地」らしい品種構成でロゼを造っている。

それぞれの葡萄は収穫日が異なるため、収穫が終わったものから黒葡萄はダイレクトプレスのロゼにして、発酵が進まないように低温で静置、最も収穫が遅いプティ・マンサン(白葡萄)をプレスしたら、全ての果汁をブレンドして、発酵へと進める。

混醸ダイレクトプレス、とも言えなくもない、特殊な造りだ。

Vin de Franceとしてリリースされているため、各種規定とは無縁。

ベリー系の香りと、洋梨やトロピカルフルーツの香りが交錯し、実に色鮮やか。

白葡萄が入っていないと、この香りにはまずならない。

すっきりとした飲み口で、酸も十分。香りのカラフルさは、口に含んでも変わらず、何とも楽しい味わいだ。

ロゼという飲み物は、非常に奥深いグラデーションによって形作られている。

そして、そのグラデーションのどこを切り取っても、楽しい発見があるのだ。

日本市場よ、そろそろロゼ後進国から脱却してはどうだろうか?

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。