2022年2月26日3 分

出会い <7> 経験を超えるもの

Augalevada, Ollos de Roque. 2018 ¥3,900

卓越したワイン造りに、経験値は必要なのでしょうか。

普通に考えれば、答えはYESです。

かつて「猿酒」造り(葡萄を容器の中で潰して、放置するだけ)に挑戦して、大失敗した経験のある筆者にとって、ワインメーカーという職は、明白に「専門職」です。素人がいきなり素晴らしいワインをいとも簡単に造れるほど、ワイン造りは甘いものではありません。それだけは間違いない、と断言できます。

しかし、モノづくりとは不思議なもので、経験値に加えて、センス、別の言い方をすれば才能とでも呼ぶべきものが、大いに関わることも確かにあるのです。

少々厳しい言い方にはなりますが、いつまで経っても一向に品質が向上しない造り手もいれば、キャリアは浅くても三段跳びで進化してしまうような造り手もいる、ということです。

排他的な考え方は好きではないので、センスに恵まれなかった(と私が個人的に感じる)造り手を非難する気は一切ありませんが、ルーキーの大活躍には、心が躍るのも確かです。

今回の「出会い」は、そんな底知れぬセンスが溢れでる期待のルーキーと。

2014年が初ヴィンテージのAugalevada(アウガレヴァーダ)は、元サッカー選手のイアゴ・ガリド・パスクアスが、34歳で突然ワイン造りの道へと進んだことによって、スペイン北西ガリシア地方のリベイロに誕生したワイナリーです。

スタート時は、全くの素人でしたが、ヴィジョンは明確でした。購入した畑はビオディナミに転換し、醸造所の地下室を改装し、たくさんのアンフォラを埋めました。

購入した僅かな畑は徐々に植え替えを進めているため、買い葡萄からもワインを造っていますが、やはり、ビオディナミの効果でしょうか、自社畑のワインの品質が、頭ひとつ抜けています。買い葡萄のワインの十分に素晴らしいですが。

自社畑の葡萄を使ったワインの名は、Ollos de Roque。ロケの瞳という意味で、ロケはイアゴの息子の名前です。葡萄品種は、リベイロでは比較的良く見かけるトレイシャドゥーラを中心に、アグデロラドという非常にレアな品種もブレンドされています。

樽とアンフォラで野生酵母発酵をし、そのまま熟成。無濾過無清澄のまま、瓶詰め時に40mg/Lの亜硫酸を添加してリリースしています。

スペインの中でもかなり冷涼なエリアであるリベイロの特色が非常に鮮明にでた、エッジの効いた酸味と、エキス感の強い果実味が、素晴らしいバランス感覚で共存しています。

輝くようなセンスを感じる、としか表現しようがありません。

素人からワイン造りを始めて、たったの数年でこの品質に到達するのは、かなりレアなケースです。

もちろん、葡萄畑のテロワールにも恵まれているとは思いますが、イアゴの情熱と献身も相当強烈なはずです。

新しいヴィンテージのリリースが毎年楽しみな造り手に出会えて、感謝。

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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。