4月15日4 分

出会い <58> ニュイ的ジャーマン・ピノの真打

Steintal, Spätburgunder Schlossberg G.G. 2021.

 

冷涼気候の中でも、特別に日当たりの良い区画だけが生み出せる、エレガンスの極地。

 

そして、ピノ・ノワールという品種において、その魔力が最大化されるのは、ブルゴーニュのグラン・クリュをおいて他に無かった

 

過去形、なのは正しい。

 

もちろん、今でもブルゴーニュのグラン・クリュが特別な存在であることは変わらないのだが、酷暑と旱魃のヴィンテージが気候変動によって劇的に増えた現代では、エレガンスの最大化という一点において、疑問を抱かざるを得ないワインとなることも多い。

 

常軌を逸した高価格だけが、今のブルゴーニュの問題では無いのだ。

 

私自身、かつては遥かに手頃な価格と高い確率で出会うことができた「ブルゴーニュの魔法」を諦めきれず、ブルゴーニュ・オルタナティヴの探求に心血を注いできた。

 

ただ日当たりが良いだけでも冷涼なだけでも、あの魔法は生まれないし、土壌組成という実に複雑な変数もまた、密接に関わってくる。探求の道のりは、困難の連続だった。

 

単純に高品質なピノ・ノワールという括りなら、世界中にたくさん存在しているが、私が探し求めているのは、それではない。

 

長年の探求を経て、現状私がブルゴーニュ・オルタナティヴの最先鋒と思っているのは、ドイツだ。

 

ドイツの中でも、ピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)の産地として一般的に知られているのは、Aar(アール)Baden(バーデン)Pfalz(ファルツ)の3産地。

 

バーデンとファルツは、コート・ド・ボーヌのPommardやBeauneに近しい酒質となりやすいので、私が求めているニュイ的なエレガンスとは方向性が異なる。(素晴らしいワインであることは間違いないが。)

 

一方のアールは、明らかに冷涼感が強く味わいに出てくるため、ニュイ的とも言える性質になるが、いかんせん生産者の数と生産量が少ない。

 

とはいえ、個人的にアールのポテンシャルにかけてきた期待は大きく、もう少し選択肢さえあれば、と常に願ってきた。

 

今回出会ったワインは、そのアールの新手とではなく、私の探求レーダーから完全に漏れていた、Franken(フランケン)地方のピノ・ノワール

 

フランケンといえば、ずんぐりむっくりしたボックスボイトルというボトルに入ったジルヴァーナーで知られている産地。(余談だが、フランケンのジルヴァーナーは、明らかに過小評価されているワインだ。)

 

ブルゴーニュ品種を育てているエリアがフランケンにあること自体は知っていたが、今回の出会いほどの衝撃を受けたことは、これまでに一度も無かった。

造り手であるSteintalは、ピノ・ノワールの産地として非常に長い歴史を誇る、Churfranken(フランケン地方西部)のKlingenbergに拠を構えるワイナリー。

 

11ha所有する葡萄畑のうち、9割がピノ・ノワールという、非常に専門性の高いワイナリーでもある。

 

Churfrankenは、バーデンの最北部とも接したエリアとなるが、ファルツ及びバーデンの大部分に比べると明確に冷涼で、気候的にはアールに近しいものがある。

 

そして、Klingenbergの土壌は、主に赤色砂岩だ。

 

V.D.P.(ドイツ高級醸造所連盟)の規則に従い、最下層のGutsweinから、最上位のGrosse Lageまで造り分けられた一連のピノ・ノワールはどれも素晴らしく、段階的にジャンプアップするクオリティに、テロワールの妙を感じずにはいられなかったが、Grosse Lage格となるこのSchlossberg G.G.には、まさに度肝を抜かれた。

 

軽快かつ精妙なアロマが美しく、端正極まりない流麗なテクスチャー、凝縮しつつも飛翔感を纏った果実味、踊るような酸、そして強靭なミネラルの余韻。

 

アルコール濃度12%の中に込められた、ただならぬ複雑性と気品に、ノックアウトされてしまった。

 

特級畑Clos St. Denisを彷彿とさせる。誤解を恐れずブルゴーニュ例えるなら、そうなるだろうか。

 

ドイツのGrosse Lage(あるいはG.G.)の中には、少々疑問が残るワインもあったりはするが、総じてレベルが高い。

 

本来ならもっと広い範囲がSchlossbergを名乗れるそうだが、Steintalは、樹齢70年を超える一区画だけを、G.G.としてリリースしている。

 

ワインを堪能した後は、感動と余韻に浸りつつも、反省もした。

 

私は、フランケンの(Churfrankenの)ピノ・ノワールを、明らかに過小評価していた、と。