4月7日3 分

再会 <58> 幻のテロワールシャンパーニュ

Jacquesson, Vauzelle Terme 2004. 流通価格 約¥50,000~

 

一番好きなワインは?という質問は非常に良く受ける。

 

回答にとても困る質問ではあるので、天邪鬼な私はいつも答えを変えるようにしているが、大体の場合、リースリング、シャンパーニュ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、サンジョヴェーゼ、ネッビオーロ辺りをループしているだろうか。

 

リースリングやネッビオーロと答えると、「なるほどね」と納得してもらえることも多いし、ピノ・ノワールと答えると大体は「やっぱりそうですか」となるが、十中八九「意外!」という反応が返ってくるのは、シャンパーニュとカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

 

王道が好きで何が悪い、と思うが、別に私がシャンパーニュやカベルネ・ソーヴィニヨンを好んでいるのは王道だからではなく、その絶対的な品質故のこと。

 

特にシャンパーニュに関しては、世界中で同様の手法からスパークリング・ワインが造られているにも関わらず、いまだに(総合的には)疑いようもなく世界で最も優れたワインであることに、心から感心を覚える。

 

とはいえ、シャンパーニュといっても、幅が広い。

 

全てのシャンパーニュが好き、というわけでも確かに無い。

 

もちろん、大手メゾンのプレステージ系には、心から愛してやまないテタンジェ社のコント・ド・シャンパーニュをはじめとして、機会(と経済力)があればいつでも飲みたいと思うシャンパーニュは多々あるが、テロワールの探求をライフワークとする私が何よりも惹かれるのは、単一畑のシャンパーニュだ。

 

広範囲の葡萄をアッサンブラージュした、極めて芸術性の高い大手メゾン系プレステージキュヴェとは、対極的な存在と言える単一畑シャンパーニュ。

 

単一畑ゆえに、品質的には(プレステージに比べると)ヴィンテージや畑のテロワール力によって多少のブレはあるものの、そのブレにこそ、奥深い魅力が宿っているのだ。

 

今回「再会」したシャンパーニュは、強力な気圧がかかるシャンパーニュのコルクを完璧にホールドする「ミュズレ」を1844年に開発し、シャンパーニュ史に確固たる足跡を残したジャクソン社の単一畑キュヴェ。

 

中でも最も希少度が高いVauzelle Termeのバック・ヴィンテージだ。

 

Vauzelle Termeは、シャンパーニュ最上ピノ・ノワールの座をヴェルズネイと争う、偉大なグランクリュ「アイ」にある、僅か0.3haの区画から生み出される。

 

高貴なテロワールと、ジャクソン社の極めて高い技術、献身性も相まって、このキュヴェがシャンパーニュ最上位に君臨するブラン・ド・ノワールの一つであることは間違いないだろう。

 

多層的かつ多元的なアロマ。力強く濃縮した果実味の中央に巨大なミネラルが鎮座し、驚異的な集中力と全方位に開放された味わいのコントラストは、ダイナミック極まりない。

 

熟成を経て最高のステージへと達したこのワインは、私のシャンパーニュ歴の中でも屈指に入るほど、記憶に残るものとなった。

 

近年激増してきた、モノ・シャンパーニュ(単一ヴィンテージ、単一品種、単一畑)の人気は、玉石混合という実態に反して、異様なほどの熱気に包まれているが、テロワールシャンパーニュとして造られるそれらの間に、優劣が発生するのは極々自然なことだ。

 

シャンパーニュの場合、全てのグラン・クリュが優れているとは言い難い部分もあるが、半数近くは文句なしに素晴らしい。そしてやはり、銘醸地として名高いアイの実力は、桁違いに凄いものだった。