3月31日4 分

出会い <57> 衝撃のグリ系オレンジ

Ziereisen Jaspis, Roter Gutedel Unterirdisch 2020. ¥6,900 (500ml)

 

あらゆるワインに対して公平に接する、というのが私の基本スタンスだが、どうにも好きになれない葡萄品種も実際にはある。

 

品質判断自体はちゃんとできるのだが、こればかりは好みの問題であったり、特殊な事情が

あったりもするので、如何ともし難い部分がある。

 

そして、実はピノ・グリ(ピノ・グリージオ)は、私がなかなか好きになれなかった葡萄の一つだ。

 

過去形、なのは正しい。

 

考えを改めるきっかけがあったからだ。

 

NYでソムリエとして働いていた頃、顧客からリクエストされるグラスワインで、ダントツのNo.1だったのは、シャルドネでもピノ・ノワールでも、ましてやカベルネ・ソーヴィニヨンでもなく、ピノ・グリージオだった。

 

ここで言うピノ・グリージオとは、主にイタリアのフリウリやアルト・アディジェで生産されていた超大量生産型の、無個性で凡庸極まりない白ワインのことを指す。

 

もちろん、それらの産地にも素晴らしい品質のピノ・グリージオが存在しているのは知っていたが、私が忌み嫌っていたのは、そうではないほうのワインだ。

 

毎晩乱れ飛ぶように消費されていくピノ・グリージオに、ついに嫌気が最高潮に達してしまい、極々個人的なピノ・グリージオ不買運動を数年間続けていたのは、今思えば若気の至りとしか言いようがない。

 

しかし、ただ一つのワインとの出会いが、私のピノ・グリージオに対する認識を一変させた。

 

フリウリの銘醸、La CastelladaのPinot Grigio 2005年

 

濃厚なロゼのようにも、やや淡い赤のようにも見える色調は明らかに異質で、複雑で重厚なアロマ、多層的な味わいが、私を一瞬で虜にした。

 

当時はまだ「オレンジワイン」と言うジャンルそのものが確立されておらず、フリウリの伝統的なRamato(極々淡いスキンコンタクトを経たピノ・グリージオ)が進化したようなこのワインも、特殊なロゼとして扱われていた。

 

ピノ・グリージオという葡萄の正解は、フランス・アルザス地方の濃醇なスタイルのみと思い込んでいた人は私だけではないはずだが、それから5年も経たない内に、ピノ・グリージオの果皮がもつポテンシャルを最大限まで抽出した進化系Ramatoが、世界各地を席巻するようになった。

 

そして、瞬く間にこのスタイルはピノ・グリージオという枠を打ち破り、世界各地に点在するあらゆる「グリ系」品種が対象となり始めた。

 

こうして一つのジャンルとして確立されたのが、オレンジワインというカテゴリー内のサブカテゴリーとなるグリ系オレンジワイン(*)だ。

 

(*)余談だが、日本のシャトー・メルシャンは非常に早い段階から「甲州グリ・ド・グリ」というグリ系オレンジワインに属するワインをリリースしていた。

 

さて、今回の出会いは、現時点では本年度のSommeTimes Awardオレンジワイン部門の筆頭候補として挙がっている、ドイツ・バーデン産のワイン。

 

Roter Gutedelは、シャスラの赤色果皮変異種と考えられている葡萄品種で、一応区分的には黒葡萄となるが、果皮と色素が極めて薄いため、実際には白ワイン用(稀にロゼ)の葡萄となってきた。その使用方法を見る限り、実態としてはグリ系品種扱いなのだろう。

 

アルザスやスイスでも極々僅かに見られる品種だが、最も広く栽培されているのはバーデンとなる。

 

この実に地味な超マイナー品種から、これほど驚異的に素晴らしいグリ系オレンジワインを造ることができるとは夢にも思わなかったが、実物が目の前にあるのだから、これは現実ということだ。

 

ワイルドストロベリー、みかんの皮、ディル、フェンネルを思わせる複雑かつフレッシュ感の強いアロマ。多層的で奥深い味わい、精妙なタンニンと酸のバランス。力強い余韻。

 

どれをとっても超一級の品質である。

 

500mlの陶器瓶で、価格は6,900円と決して安価ではないが、最上位クラスのオレンジワインとしてはむしろリーズナブルとすら言える。

 

当然、日本への入荷量は少ない。

 

オレンジワインファンなら、急いで探して、体験すべきワインだ。