2月18日4 分
Jürg, Spätburgunder G.G. “Sonnenberg KT” 2019. ¥7,800
2024年に入ってから、ブルゴーニュ関連のマスタークラスを立て続けに開講していることもあり、例年以上に深く彼の地と向き合う日々が続いている。
ソムリエ駆け出し時代から、マット・クレイマー著の「ブルゴーニュが分かる」や、クライヴ・コーツMW著の「The Wines of Burgundy」といったブルゴーニュ関連の名著は、擦り切れるほど読み込んだし、ブルゴーニュが飲める試飲会には積極的に足を運び、プライヴェートでもヘソクリを絞り出して、グランクリュに手を伸ばしてきた。
私の頭の中には、自分でも不思議に思うほど膨大なクリマ名や、そのワインの特徴に関するメモリーがアーカイヴされている。
私はそもそも、物忘れが極端に激しく、カレンダーに詳細に書き込んだスケジュールやSNSでの「名前と顔の照合」を頼りに、日々をなんとか重大なトラブルなく生きているようなタイプの人間なのだが、きっとそうなってしまったのは、限られたメモリー容量を、ワイン関連に全振りしてしまっているからだ、と信じたいところだ。
早速話が脱線してしまったが、世界中のワイン産地を網羅的にカヴァーするようになった今でも、ブルゴーニュやボルドー(その他イタリア、スペイン、ドイツ、オーストリアの銘醸地も)が私の中心部にあるのは変わらない。
だが、そもそもブルゴーニュを飲む機会自体が激減した。
価格の高騰が理由といえばそうなのだが、機会を積極的に作ろうと思えば、できないことはない。
ただ、興味がそもそも薄れているのだ。
カリフォルニア、オレゴン、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカなどには、ブルゴーニュのグランクリュに肉薄するワインが少なからずあるし、その他の国々や地域にも優れたピノ・ノワールは数多くある。
これらのワインは、ブルゴーニュの「個性」を脅かすタイプのワインではないが、「品質」は遜色ないレベルにまで向上している。
そして、そういった「非ブルゴーニュ系」の中で、一つだけ「個性」という意味でもブルゴーニュにとって脅威となっている産地があることは、だいぶ周知されてきているだろうか。
その産地とはもちろん、ドイツのことだ。
ドイツにおけるピノ・ノワールの銘醸地はアール、ファルツ、バーデン。
北側のアールは平たく言えばニュイ的な性質に、南側のファルツとバーデンはボーヌ的な性質になる。
かつては熟度が足りず、線が細く、酸が尖り、密度に欠ける味わいが多かったが、近年のワインは、その全てをクリアしている。
もはやブラインドテイスティングでブルゴーニュと効き分けることが非常に困難となるレベルで、品質面の向上だけでなく、オールドワールドらしい「個性」の意味でも肉薄しているのだ。
さて、今回の出会いは、かねてから注目してきたファルツの若き生産者であるユルグが主役となる。
このピノ・ノワールは、ファルツの名高い特級畑(グローセス・ゲヴェクス)の一つである、ソネンベルクから。
重厚なアーシートーンと、華やかなフラワリーノートが入り混じる多層的なアロマ。
充実したミッドパレット、しなやかなタンニン、存在感のある酸。
そして、長大で緻密なミネラルの余韻。
コート・ト・ボーヌと比較するならば、その品質は平凡な特級畑コルトンよりも遥かに優れており、個性と品質を合わせた評価をするならば、Pommardにある「特級畑クラス」の一級畑であるRugiensを思い起こさせる。
当然、Pommard 1er Cru Rugiensの平均的な価格は、このワインの2~3倍だ。
少なくとも、村名格のGevrey-ChambertinやMorey-Saint-Denisに、このワインの倍のお金を払う正当な理由が、私には全く思い浮かばない。
ブルゴーニュっぽい味わいを、遥かに安い価格と、遥かに高い品質で楽しみたいのであれば、ドイツを最有力候補として知っておいても、決して損はない。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。