1月13日3 分
Dom. Vincent Dauvissat, Chablis 1er Cru La Forest 2018.
各種コンクールの盛り上がりもあり、すっかり競技化した側面も強いブラインド・テイスティング。
恐ろしく膨大な選択肢の中から、完全にノーヒントで品種、産地、ヴィンテージ、或いは生産者やキュヴェまで看破して見せるのは、砂漠の中からダイアモンドを探り当てるような作業に等しく、まさしく神業とすら言えるだろう。
「ディテールまで当てる」という意味では、その領域に到達できるのは、凄まじい修練を重ねた上で、超スピードの取捨選択を脳内で繰り返すことができる、極々限られたトップ・アスリートのみだ。
例え一割の成功率でも、そのような神業を繰り出せる人を、私は心から尊敬しているが、私自身がブラインド・テイスティングを行うときの最大の楽しみは、「当てること」ではなく「真実を暴くこと」にある。
両者は似たような言葉に思えるかも知れないが、私にとって「真実を暴く」というのは、「あらゆる思い込みを壊す」ことに限りなく近い。
ブラインドによって壊された「思い込み」こそが、そのワインの真実(リアル)を伝えてくれるのだ。
これ以上の学びの瞬間はそうそう無い。
昨年末、ポルトガルのポルトで、三カ国から(二名のMWを含む)トップ・ワインプロフェッショナルが集結し、ポルト市内のワインバーで、ちょっとしたブラインド・テイスティングに興じたときのこと。
メンバーの一人が選び、他の参加者にブラインドで出題したワインの正体は、ブルゴーニュ・シャブリが誇る大銘醸、ドメーヌ・ヴァンサン・ドーヴィサの一級畑だった。
高い熟度、硬質なコアのミネラル感、丸く穏やかな酸、滑らかなテクスチャーが素晴らしいそのワインは、メンバー全員を困惑させた。
かなり高品質なワインであることはすぐに分かったが、その正体へとなかなか辿りつかない。
私は、(なにせポルトにいたので)サジを投げるように、ヴィーニョ・ヴェルデのアヴェッソと答えたが、自信は全くなかった。
全員が一通り答えた後、ワインがシャブリの一級畑、しかも天下のドーヴィサだと明かされた時には、ひっくり返るほど驚いた。
正解率はゼロ。それどころか、誰もシャルドネとすら思っていなかった。
だが、ヴィンテージが酷暑と旱魃の年である2018年と知ると、妙に納得がいった。
そのワインには、我々が「シャブリらしさ」の重要な鍵だと思い込んでいる「豊かな酸」が、どこにも見当たらなかったのだ。
温暖化によって、シャブリのティピシテが失われつつある、という事実を、図らずしもブラインド・テイスティングで確認することになった。
さて、問題は「その先」にもある。
ヴァンサン・ドーヴィサのワインは、決して安価ではない。
正規価格で手に入ればまだマシだが、何せドーヴィサだ。同じワインの二次市場価格は、軽々と三万円を突破する。
そして、そのような超高級ワインが、ティピシテの重要なパーツを失っているというリアルがここにある。
シャブリらしさを「高い酸、強いミネラル、抑制された程よい果実味、フィネス」と定義付けるのであれば、5分の1以下の価格で、もっと「それっぽい」ワインは世界中に数えきれないほどある。
気候変動の時代を生きている我々は、やはり冷静さを取り戻す必要があるのでは無いだろうか。
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「再会」と「出会い」のシリーズは、SommeTimesメインライターである梁世柱が、日々のワイン生活の中で、再会し、出会ったワインについて、初心者でも分かりやすい内容で解説する、ショートレビューのシリーズとなります。